
- メルカリ:環境整備に注力、リモートワークを当たり前に
- じげん:Purposeを設定、「背中を見て学ぶ」から「オンライン講義」へ
- BASE:メッセージの発信機会を増やし、カルチャーを醸成
- オイシックス:戦時宣言をし、エッセンシャルワーカーをヒーローに
原則リモートワークか、それとも出社とリモートワークのハイブリット勤務か──コロナ禍で半ば強制的に“働き方改革“を迫られた会社は多いだろう。また、従来の出社前提の働き方が変わったことで、組織マネジメントの難易度も上がった。
会社を取り巻く環境が劇的に変化する中、スタートアップはどのような考えのもと、働き方を変え、組織マネジメントを行ったのだろうか。
10月21〜22日の2日間、福岡で開催されているVC主催の招待制イベント「B Dash Camp 2021 Fall in Fukuoka」で「ポストコロナの組織マネジメント」と題したセッションが開催された。登壇したのは、メルカリ上級執行役員の青柳直樹氏、じげん社長執行役員CEOの平尾丈氏、オイシックス・ラ・大地代表取締役社長の髙島宏平氏、代表取締役CEOの鶴岡裕太氏の4人。モデレーターはディー・エヌ・エー常務執行役員CSOの原田明典氏が務めた。
メルカリ:環境整備に注力、リモートワークを当たり前に
フリマアプリ「メルカリ」の運営元であるメルカリは、世界でコロナ禍の兆しが見え始めた2020年2月の段階で原則在宅勤務を導入。5カ月後の7月には、個人・チームの裁量に合わせてリモート・出社の有無、出社時間・頻度など自由に選択できるワークスタイル「メルカリ・ニューノーマル・ワークスタイル」のトライアルも開始している。
そうした取り組みを通じて、メルカリは「ワークスタイルを画一的に規定するのではなく、出社とリモートワークの利点を生かしながら、社員それぞれが適切なワークスタイルを選択できるようにするのがベスト、と判断。2021年9月には、仕事のパフォーマンスが高まるワークスタイルを社員が自由に選択できるワークスタイル「YOUR CHOICE」への移行を発表した。
「メルカリの六本木オフィスは契約上数年先まで解約できない状態にあり、昨年まではコロナの感染状況を見ながら対応を判断してきました。ただ今年に入って人材の採用を再開していくにあたり、『会社のワークスタイルを明確にした方がいいのではないか』という話から、YOUR CHOICEへの移行が決まりました」(青柳)
青柳氏によれば、現在メルカリのリモートワーク比率は8割ほどで、オフィスに出社する人の割合は2割ほどになっているという。コロナ禍前は出社が当たり前だった中、メルカリはどのようにリモートワークに対応していったのか。
「定期的にサーベイを実施するなど、リモートワーク前提のワークスタイルに順応するまでには時間がかかりました」と青柳氏は語る。そのほか、リモートワークの環境は人それぞれ異なるため、メルカリはリモートワーク手当ても出し、環境整備に力を入れた。
「慣れるまでは大変でしたが、リモートワーク前提になったことで生産性は劇的に上がっていると思います。また社員のメンタルも良い状態が継続していると思います」(青柳氏)

また、メルカリはコロナ禍でも積極的に採用を進めていくにあたって、入社後のオンボーディングの仕組み化にも注力。「会社のいろんな仕組みを言語化したほか、経営陣が考えを話しているものを録画して空き時間に見てもらうようにしています」(青柳氏)
言語化という点に関して、メルカリは先日、社員同士の「共通の価値観」をまとめた社内向けのドキュメント「Mercari Culture Doc」を公開している。
「リモートワークが普及したことで、もはや職場と家庭が一体になっています。そうした環境の中、社員にモチベーションを維持してもらうためにも、家庭でのメルカリの仕事の見え方は意識しています。家庭内で『良い仕事をしているね』となると、仕事への理解が得られてストレスが減ると思うので、そういうサポートは手厚くしていきたいです」(青柳氏)
じげん:Purposeを設定、「背中を見て学ぶ」から「オンライン講義」へ
求人・住まい・車・旅行などのライフイベント領域で、ウェブメディアの運営や関連サービスなどを提供しているじげん。同社は新型コロナの影響を受け、経営の危機に陥ったという。
「旅行事業と求人事業のの売り上げが一気に減り、12期連続での増収増益から、減収減益という状態になってしまいました。そのため、組織マネジメントというよりかは、いかに会社を存続させるか、が重要になった。まずは会社の立て直しから考え始めました」(平尾氏)

具体的には、会社の「Purpose(パーパス:目的)」を策定したほか、ロゴも変更。また、ディー・エヌ・エー元代表取締役社長の守安功氏を社外取締役に招聘(しょうへい)した。
「実は事業だけでなく、組織の戦略も時代の逆をいってしまったんです。じげんは数あるIT企業の中でも、アントレプレナーシップ(起業家精神)の育成に力を入れていて、その方法は主に阿吽の呼吸で背中を見て学ぶ、というハイコンテクストなものでした。今まで強みとしてきた部分が、コロナ禍で一気に弱みになってしまったんです」(平尾氏)
それを踏まえ、じげんでは平尾氏が“社内YouTuber”のようになり、アントレプレナーシップに関する動画を投稿しているという。「オンラインでどこまで振り切れるかが大事」(平尾氏)と言い、ビジネススクールのオンライン化のようなことに取り組んでいる。
BASE:メッセージの発信機会を増やし、カルチャーを醸成
ネットショップ作成サービス「BASE」を運営するBASEは現在、全社員を対象にリモートワークを推奨する勤務体制をとっている。ただ、鶴岡氏によれば「あくまで短期的な方針」とのことで、来年以降、同じ勤務体制にするかどうかは議論の余地があるという。
「メルカリほど大きな組織になれば“フルリモート”というかたちに振り切れますが、BASEはまだ組織規模も小さく、カルチャー醸成の観点からも振り切るのは難しい。ただ、メガベンチャーがフルリモートを打ち出すと、スタートアップはそこに追随しなければエンジニア採用ができなくなってしまう可能性があるんです。中堅企業、スタートアップとしては難しいタイミングで、この1年の間で会社としてどこまで方針をつくれるか、が大きいテーマになってくるのかなと思います」(鶴岡氏)

BASEもメルカリ同様にリモートワークが当たり前になっており、エンジニアは働きやすくなり、生産性は上がっている感覚があるという。
「今後もリモートワーク環境下でのインセンティブ設計は当たり前にやっていく中で、自分の仕事は世の中の役に立っているのか。社員と直接触れ合う機会が少なくなってきているからこそ、そこに対するメッセージの発信機会は増やしています」(鶴岡氏)
オイシックス:戦時宣言をし、エッセンシャルワーカーをヒーローに
ミールキット「Kit Oisix」などを展開するオイシックス・ラ・大地は、コロナ禍でまず「戦時事態宣言」をしたという。普段は「平時」と「戦時」で状況を分けているそうで、2020年2月に戦時であることを宣言してから、平時の仕事をやめたとのこと。
「毎日、経営会議を実施して、意思決定を下していきました。振り返ってみて、すぐに戦時、有事と判断し、経営をシフトしたことは意味があったなと思います。スタートアップは規模が小さいからこそ、大企業よりも変化対応に優れているはずです。だからこそ、そのメリットをレバレッジしなければ成長できません。そういう意味では、すぐに戦時、有事と判断できたのは良かったなと思います」(髙島氏)
また、オイシックス・ラ・大地は先述の3社と比べて、梱包作業や配送作業などを担う「エッセンシャルワーカー(日常生活における、必要不可欠な仕事を担う人)」たちが社内に1000人、社外に1000人ほどいて割合が多い。コロナ禍はエッセンシャルワーカーにも影響があったという。具体的には、子どもの学校が休校になったことで、子どもの面倒を見なければいけなくなり、10〜15%ほど欠員が出てしまった。
「そのときは、オフィスワーカーの人たちが工場や配送センターに行き、対応することで乗り切りました。私たちの事業はエッセンシャルワーカーの人たちのモチベーション向上と働きやすい環境づくりが事業成長に直結します。どれだけマーケティングをがんばったとしても、フルフィルメントをがんばらなければ意味がないんです」(高島氏)

そのため、オイシックス・ラ・大地ではエッセンシャルワーカーの人たちを、ヒーローのように扱うべく、何度か特別賞与も出したという。
「コロナ禍で感染のリスクを犯しながら出勤し、増える出荷に対応する。オフィスワーカーの中にも、エッセンシャルワーカーの人たちに対するリスペクトがあったからこそ、特別賞与などの取り組みに関しても、誰からも不満が出ませんでした」(高島氏)