
- 子猫の育成・収集から始まった「NFTゲーム」
- NFTゲームがつくりだす「新たな経済圏」
ここ数カ月、世界中のベンチャーキャピタル(VC)の間でしきりに話題にあがる領域がある。それが「NFTゲーム」だ。やや盛り上がりが過熱気味なところはあるにせよ、間違いなく新たな市場が形成されつつある、というのは全員が同意するところだろう。
今月に入って資金調達を実施したスタートアップとして、代表的なのがゲーム内で仮想通貨を入手したり、NFTを売ったりすることで稼ぐことができるNFTゲーム『Axie Infinity(アクシーインフィニティ)』を開発するSky Mavisだ。
また、他にもVisionrare、MonkeyBall、Parallel、Genopetsが資金調達を実施するなど、例を挙げ始めるときりがない。
NFTゲームの最大の特徴は、アイテムやキャラクターに付与された非代替性トークン(NFT)をマーケットプレイスで取引することができる点にある。
世界で最もプレイされているNFTゲームのひとつAxie Infinityで取引されているNFTの総額は、22億米ドル(約2500億円)にのぼる。一方で、これを投機目的のバブルと見る冷ややかな意見もある。NFTゲームが今後ゲームの主流となり得るのか、それとも先細っていく傍流に過ぎないのか。具体的な例を挙げながら見ていきたい。
子猫の育成・収集から始まった「NFTゲーム」
NFTゲームの先駆けは2017年にリリースされた『CryptoKitties(クリプトキティーズ)』と呼ばれる、子猫を集めて取引する育成・収集ゲームだ。子猫の1匹1匹にNFTが付与され、珍しい子猫ほど高値で取引される。
ユーザーは自分の持っている子猫を他の子猫と交配することで、さらに珍しい形態を持つ子猫を生み出すことができる仕組みだ。運営会社のDapper Labsが作成したベーシックな子猫だけでなく、交配によって突然変異で生まれた「Fancy Cats」や、開発者が独自につくった「Exclusive Cats」、誤ったデザインのままリリースされてしまった「“Misprint” Kitties」なども存在し、これらのほとんどが非常に高い価格で取引されている。

CryptoKittiesはゲーム内で手に入れたアイテムやキャラクターを、そのゲームの枠を超えて「Collectibles(収集物)」として保有・取引できる点が新しい。
運営側に管理された世界ではなく、ユーザーが自身の手で新しい子猫を生み出し、仮想通貨を使って分散的に売買することができるモデルがプラットフォームの自由度を上げ、拡がりをもたらし、多くのユーザーを取り込んでいる。また、運営会社としても、これら無数の子猫の家系図や売買データを中央集権的に管理することは現実的ではない。NFTによってはじめて実現されたゲーミングエコノミーの形態と言えるだろう。
このCryptoKittiesの流れを汲んで、Axie InfinityやThe Sandboxといった世界中で最もプレイされている現在のNFTゲームタイトルが生まれた。Axie InfinityはDAU(1日あたりのアクティブユーザー)が180万人、1日当たりの取引額は3300万米ドル(37億円超)と公表しており、プレーヤーの中にはゲームからの収入だけで生計を立てている人もいる。
NFTゲームがつくりだす「新たな経済圏」
NFTゲームがもたらした上記のようなモデルは”Play to Earn”(プレイして稼ぐ)と呼ばれ、新たな経済圏を作り出した。最近では、さらに進んで、NFTの特性をうまく利用して従来とは異なるアプローチでゲーム開発を行うプレーヤーも登場している。
例えば、ゲームスタジオは、アイテムやキャラクターのNFTを先行販売することで潤沢な運転資金を前もって確保することができる。ゲームをリリースしてユーザーを集めてユーザーが課金し始めるという、従来かかっていた一連のリードタイムが必要なく、企業としてのキャッシュフローが安定して確保できる点は画期的だ。
ゲーム業界に限らず、NFTを用いた資金調達手法はさまざまな業界で利用されている。例えば、『Stoner Cats(ストーナー・キャッツ)』はNFTによる資金調達で制作された最初のアニメで、不思議な力を持った5匹の飼い猫と飼い主の物語だ(なぜかNFTはいつも猫から始まる)。
登場する猫のそれぞれにトークンが先行販売され、その購入者が優先的にアニメや特典コンテンツを楽しめる仕組みになっている。初回の売り出しでは1万420トークンが約35分で完売し、800万米ドル(約9億円)の資金調達に成功したという。

また、『Loot(ルート)』や『The N Project』といったボトムアップ型開発の動きも注目だ。これらは文字情報だけのNFTで、後の開発はユーザー側にオープンに委ねられている。例えば、Lootはロールプレイングゲームで言う装備品の名前が書かれたトークンを発行している。トークンに書かれているのは文字だけで、絵や強さを表すパラメーターなどは一切存在しない。それにもかかわらず、これらのトークンは高値で取引されている。
今になって、コミュニティに参加する開発者たちは、これらのトークンをベースにしたゲームやプラットフォームの開発をあちこちで始めている。例えば、トークンに書かれたアイテムの文字列から、キャラクターのビジュアルを自動生成するプラットフォームなどだ。
こうした周辺プロジェクトとの相乗効果で、元のトークン自体の価値も変動する。偶然生まれたクールな装備や可愛いキャラクターが高値で取引され、経済圏を形成していく。運営企業がルールを定義し、トークンに意味を与える従来モデルではなく、分散的な組織がボトムアップで世界をつくり上げていく、まさに新しいモデルだ。
LOOT
— dom (@dhof) August 27, 2021
- randomized adventurer gear
- no images or stats. intentionally omitted for others to interpret
- no fee, just gas
- 8000 bags total
opensea: https://t.co/qSnRJ1FD0n
etherscan: https://t.co/bF9p0RSHX2
available via contract only. not audited. mint at your own risk pic.twitter.com/uLukzFayUK
(↑新プロジェクト『Loot』を発表するDom Hofman氏のツイート。「ユーザーに自由に解釈してもらうために画像やスタッツは敢えて排除した」とコメントしている)
NFTはあくまで手段に過ぎない。一時的な投機バブルで盛り上がりが終わらず、ゲームやコンテンツをより深く、多様な方法で楽しむための手段として普及していくのか。今後のNFTゲームの発展に期待したいところだ。