
- あるCTOのコンテンツに1日で約50件の応募が殺到
- 「応募ハードルの低さ」などが評価されているのではないか
- 作成されたコンテンツが新たなユーザーを連れてくる引き金に
- LayerXでは数百件のカジュアル面談が発生
- 次のトレンドは「ファンベース型」の採用
「プロダクトマネジメントについてゆるっとお話しましょう」「●●(自社名)のお金でお寿司食べませんか?」「■■(自社名)での機械学習エンジニアの働き方についてお話しします」──。
最近SNSを眺めていると、さまざまな写真の上に白い文字が書かれた同じフォーマットの投稿を頻繁に目にするようになった。これらはどれもカジュアル面談プラットフォーム「Meety(ミーティー)」を使って作られたコンテンツだ。
同サービスのコンセプトは、カジュアル面談を“もっとカジュアル”にすること。面談を募集したいユーザーは「わたしの悩み」や「わたしの仕事」といったトークテーマを設定し、Meety上に掲載する。応募する側のユーザーにとっては、企業の中の人とオンライン上で気軽に話せるのが特徴だ。
かつて求人サービスのWantedlyは「会社訪問」のハードルを劇的に下げることで多くのユーザーの関心を集めたが、Meetyはカジュアル面談の概念を広げる。
カジュアル面談と聞くと採用目的でのみ使われるサービスのようにも思えるが、自由度はかなり高い。
“エンジニアが他社の先輩エンジニアに話を聞く”といったように同じ職種同士の人が情報交換やキャリア相談の用途で使ったり、“採用人事とオンライン麻雀をする”といったように共通の趣味を持つ人が交流する目的で使ったりする例もある。
つまり、コロナ禍でオフラインでの開催が難しくなった「ミートアップ(交流会)」の代替手段としてもMeetyが活用されているわけだ。

サービスのローンチは1年前の2020年10月だが、一気に成長軌道に乗ったのは2021年8月半ばから。それ以来は1日数百人ペースで新規登録者が増え、新たに公開されるコンテンツの数も1日100件を超える。 申し込み数、マッチング数は7月以前と比較すると10倍程度の数字が出ているという。
現在はメルカリやLayerX、Ubieなどメガベンチャーから創業間もないスタートアップまでユーザーが広がっている。メンバーの投稿を合計すると100個以上のコンテンツを公開している企業も存在するほどだ。
ローンチから1年近くが経過したタイミングでなぜユーザーが急増したのか。開発元のMeetyで代表取締役を務める中村拓哉氏にその背景を聞いた。
あるCTOのコンテンツに1日で約50件の応募が殺到
Meetyが注目を集めるようになったきっかけは、あるユーザーが作成した1つのコンテンツだった。投稿の主はLayerXの代表取締役CTOである松本勇気氏。タイトルは「CTO/Tech Lead/PdM/EMの方や目指している方と壁打ち」だ。

松本氏はGunosyのCTO、DMM.comのCTOを経てLayerXのCTOに就任した人物。Twitterのフォロワー数は1.7万人を超えるなど、IT業界への影響力も大きい。その松本氏にカジュアルに相談ができる機会ということで多くのエンジニアの目を引き、公開当日だけで50人近くの応募者が殺到した。
この事例が象徴するように、Meetyの大きな特徴は「圧倒的な応募ハードルの低さ」にあると中村氏はいう。
応募するのに必要なのはログインして「気になる」ボタンを押すことだけだ。任意でテキストを入力することもできるが、ボタンを押すだけで応募が完了。募集する側が承認した場合にはマッチングが成立し、日程調整などを進める。
Meetyでは応募段階ですでにトークテーマと面談相手が開示されているため、「当日まで誰と話すのかがわからない」「カジュアル面談だと聞かされて行ったら実際は面接だった」といった不安やストレスとも無縁だ。トークテーマについても、文字通りカジュアルなものも含めて幅が広い。
そもそもMeety自体が「オフラインの採用ミートアップを管理するサービス」として始まり、コロナ禍の影響を受けて現在のかたちへとピボットした背景がある。実際に一部ではMeetyが“コロナ禍で激減したミートアップの受け皿”としての役割を果たしており、“ビジネスマッチングサービス”のような用途でも利用されている。
「応募ハードルの低さ」などが評価されているのではないか
松本氏のコンテンツもその代表例と言えるが、従来はミートアップで生まれていたつながりや相談の機会をMeetyで作るユーザーも多く「採用以外の用途で使われることも増えてきた」(中村氏)という。
「採用のためだけのサービスとなると遊びもなくて新しくないので、採用目的以外での使われ方が広がっているのは良い傾向だと思っています。一方で『Meetyであわよくば採用できるかもしれない』というのがあるから、続けやすい部分もある。完全に雑談サービスだと何のペインも解決しないけれど、『採用につながると良いな』という思惑が(ユーザーに)あるので、それが上手く効いているのではないかと考えています」(中村氏)
今のところMeetyの機能はかなりシンプルで、同じようなことはTwitterのDM機能やGoogleフォームなどを使ってもできないわけではない。ましてや現在のMeetyはサービス自体に強力な集客力があるわけではなく、募集を作ったユーザーが自身のSNSを通じて集客している状況だ。
それでも同サービスが使われているのは、コロナのようなマクロ的な背景に加えて「サービスのコンセプトや(募集や応募ハードルの低さなどといった)UXを評価してもらえているからではないか」というのが中村氏の見解だ。
作成されたコンテンツが新たなユーザーを連れてくる引き金に
松本氏を筆頭にIT界隈で影響力のある人物が徐々にMeetyに集まり始めたタイミングで、この勢いを加速させるべく中村氏たちは「ウラ凸」と呼ぶ企画を始めた。
これは簡単に言えばMeety上に開設される「会社ページ」のようなもの。企業ごとの特集ページが用意され、そこに各社のメンバーが作ったコンテンツを集約する。

この企画に合わせて各社がだいたい5〜30個ほどのコンテンツを作成し、メンバーがSNSで一斉にシェアをするため、Meetyの投稿がタイムラインで目に留まりやすい。
数ある投稿のすべてが会社のアカウントで作成されていると、SNSで投稿を見ているユーザーはうっとおしく感じることもあるだろう。だが、あくまで各メンバーごとのコンテンツとして作成されているため、そういった心配もない。
著名人や有名企業がこぞって使うようになれば、そのコンテンツが引き金となって次の強力なユーザーを連れてくる──このサイクルが上手くハマった結果、Meetyは「著名企業のCxOや有名なベンチャーキャピタリストなどと直接繋がってカジュアル面談ができる場所」として話題を集めている。
企業からの掲載リクエストをもとに1日1社のペースで公開しているウラ凸企画も問い合わせが多く、すでに12月末まで毎日枠が埋まっている状況だという。
LayerXでは数百件のカジュアル面談が発生
中でもウラ凸企画1社目となったLayerXは松本氏や代表取締役CEOの福島良典氏を始め、早い段階から積極的にMeetyの活用を進めてきた。
LayerXで執行役員を務める石黒卓弥氏によると、もともとは会社で実施していたClubhouse配信の視聴者向けに、カジュアル面談をする際の受け口として2021年1月頃からMeetyを使い出したのだそう。それをきっかけに4月から7月までに2名の採用が実現したこともあり、今夏から社内での利用も促進し始めた。
すでに会社全体で合算すると「申し込みやマッチングともに数百件のカジュアル面談を生んでいる」状況で、Meetyをきっかけに選考プロセスに進むケースが一定数あるほか、実際に複数件の内定にもつながっている。候補者が内定後に承諾を検討するにあたり「Meetyで社内のメンバーと会話をする」こともあるなど、使い方の幅も広いという。
「(Meetyを)非常に重要なチャネルとして位置づけています。私たちはまず『LayerXやそこで働くメンバーを知っていただく』ことを念頭に置いて、活用しています。またそれが1on1(1対1での面談)になることから、いわゆるオンラインイベントとは異なる立ち位置を担っています。例えるのであればコロナ禍になる前の『オフラインイベント後の1on1のアフタートークの時間』を代替しているように感じています」
「申し込みする側の目線に立つと、今までのHRサービスが『ポテンシャルを測定したり、アピールしたりする』ツールだったのに対して、Meetyは『ポテンシャルを広げる、引き出す、背中を押すきっかけを作る』ツールだと感じています」(石黒氏)
次のトレンドは「ファンベース型」の採用

現場のメンバーが自分のためになるので、自発的にコンテンツを作る。採用サービスという観点でもう少し掘り下げると、これがMeetyと多くの既存サービスとの違いと言えるかもしれない。
「人事の方は現場の方を巻き込んだ採用をやりたいけれど、実態として全員での採用活動をできている企業はまだ少ないです。それがMeetyによって『自分のためになるからやろうかな』と現場の社員が乗ってきてくれるようになりました」
「面談をすれば会社の話題にもなるので、今までは採用担当が話していたようなことを、社員がさまざまな場面で楽しんで話してくれるように変わったという企業もいます。少しずつですが、そのような定性的な価値を感じていただけることも増えてきてました」(中村氏)
Meetyには今のところ企業用の管理画面もないため、あくまで現場の各メンバーが“勝手に”募集を出して、面談をするCtoC型のサービスになっている。だからこそ従来の採用サービスには出てこなかったライトなコンテンツも多数投稿され、新しいつながりが生まれやすい。
採用サービスの変遷をたどると、候補者が企業の求人に応募する「募集型」から始まり、SNSの普及とともにユーザーのプロフィールや行動情報などを軸に企業側から候補者に声をかける「スカウト型」が広がった。
中村氏によると、採用が上手くいっている企業ではこの2つと並行して「ファンベース型」の思想を取り入れた採用活動を始めているという。中村氏としても、Meetyの勝機をそこに見出しているようだ。
「(特にスタートアップにおいて)採用の難易度が高まってきている時代において、まずは会社のファンを作っていくような取り組みが広がってきています。『リファラル採用』や『採用マーケティング』、『タレントプール』といったキーワードは、どれも抽象化するとファンベースの話につながっていくもの。会社のファンを増やし、想起度を上げていくようなイメージです」
「Meety自体も直接的には採用につながっていないケースが多いですが、自社のファンが増えたという話をよく聞きます。アプローチは違いますが、たとえばYOUTRUSTなども(投稿をきっかけに会社の想起度やファンを増やしていくという観点で)文脈が近いのかなと考えています」(中村氏)
もちろんMeetyが採用サービスとして突き抜けていくためには、乗り越えなければならない壁も多い。
現在同サービスは完全無料で提供しているが、マネタイズの手段としては「企業から採用の予算でいただくことを想定している」(中村氏)。有料で使うとなると成果をシビアに評価されるだろうし、より“採用色”の強いコンテンツが増えていくかもしれない。
そうなった時に「いかに今のMeetyの特徴を維持しながらビジネスとしてスケールできるか」は大きな挑戦になりそうだ。