
- 市場規模は65.4兆円以上のメノテック市場
- 更年期世代の女性へのアプローチに特化したD2Cウェルネスブランド「Womaness」
- 遠隔で更年期の症状を診断する「Gennev」
- ほてりの緩和やストレス管理、睡眠の改善に役立つウェアラブルデバイス「Embr Labs」
- 40代以上の女性をターゲットにしたヘアケアブランド「Better Not Younger」
- 膣の乾燥や、痛みなどの改善に役立つソフトジェル「Imvexxy」
- ブランド向けに更年期製品の立ち上げ支援を行う「GenM」
- 更年期向け製品を手がける女性起業家の共通点
Female(女性)とTechnology(テクノロジー)をかけあわせた造語「FemTech(以下、フェムテック)」。昨今、フェムテック領域では卵子凍結や生理周期管理のアプリなどが注目されがちだが、いま世界では、更年期向けの市場で新たなサービスが続々と生まれている。
この市場は、Menopause(更年期)とテクノロジーをかけあわせて「MenoTech(以下、メノテック)」と呼ばれている。今回は、メノテック領域の注目サービスを紹介したい。
市場規模は65.4兆円以上のメノテック市場
個人差はあるものの、50歳前後で閉経する人が多く、この閉経の時期を挟んだ前後数年ずつの約10年間(一般的に45〜55歳ごろ)を更年期と呼ぶ。更年期の主な症状は、ほてり、肌の乾燥、膣の乾燥、関節の痛みなどが挙げられる。
女性起業家に特化した米国のベンチャーキャピタルのFemale Founders Fundが発表した2020年のレポートによると、2025年には世界で約11億人の女性が更年期を迎えるという。企業にとっては6000億ドル(65.4兆円)のビジネスチャンスが生まれることになる。
しかし現状では、大手消費財メーカーが生理用品などでターゲットにしているのは、40歳までの女性だ。そのため、更年期を迎える中年女性に向けられた広告はわずか5%に止まっている。そのため、多くの女性は更年期を理解しておらず、それがいつ起こるのか、自分が更年期であるのかどうかにさえ気づかないという。
そして女性自身の知識不足、情報不足により、さまざまな医師に診てもらうなどの余計なステップが発生し、金銭や時間のコストが必要以上にかかっている。上記のFemale Founders Fundの調査では、女性は更年期の診断を受け、治療を受けるために、平均2万ドル(約227万円)も費やしてしまっている。
ここ数年、このギャップに気づいた人たちが、続々とメノテック市場に参入。症状を緩和する製品や、症状を管理するためのプラットフォーム、遠隔医療などのサービスを展開している。ここからは、メノテック領域のスタートアップを数社紹介したい。
更年期世代の女性へのアプローチに特化したD2Cウェルネスブランド「Womaness」

更年期症状を緩和する製品を開発するウェルネスブランドのWomanessは、スキンケア、膣用クリーム、セクシャルウェルネス製品、サプリメントなどを展開している。
デザインのコンセプトは、キャリアの絶頂期にあるセクシーで活気に満ちた女性。米国でディスカウントチェーンを展開するTarget Corporationの元幹部である創業者が、膣の乾燥について悩みを持っていたことが創業の経緯となっている。従来の更年期向け製品はバラエティが少なく、成分もナチュラルではないこと、そしてデザインもカッコいいものがないという気づきを得たことから、更年期症状を緩和する製品が開発された。
量販店で販売されている既存のフェミニンケアブランドの多くが、40代以上の更年期・閉経期の消費者に対応していない。創業者自身、Targetで23年間マーケティングとマーチャンダイジングを担当した経験から、小売店舗で製品を展開することを重視し、2021年3月末からは、Targetでも販売を開始している。

更年期世代の女性たちは、通常のD2Cブランドがターゲットにしているミレニアル世代とは商品展開の方法がまったく異なるという。彼女たちは目が肥えていて、ソーシャルメディアよりも地元の友人グループの影響を受けやすい。
だからこそ、有料メディアとオーガニックメディアの両方を含むソーシャルメディア、イベントを中心とした伝統的なメディアを組み合わせて、アプローチしている。
新しい時代を生きる更年期世代の女性にとって、活発なブランドイメージを持つ同社のコンセプトは受け入れられていくと考える。抜け毛や勃起不全など男性コンプレックスをターゲットにして、男性ウェルネス経済圏を築いたHimsと同様に、更年期女性を囲い込み、さまざまなビジネスが展開できるのではないか、と個人的に期待している。
遠隔で更年期の症状を診断する「Gennev」

次に紹介するのは、更年期障害のケアを専門とする施術者とのビデオ診療を提供するGennevだ。パンデミックによって、遠隔医療が拡大しているが、この流れはメノテック市場にも広がっている。
Gennevは米国23州で展開されており、医師との面談は30分85ドル(約9600円)。他にも運動や栄養面のコーチングが受けられる45ドル(約5100円)の30分間のセッションも提供されている。同社はMicrosoftとスキンケア製品販売のNeutrogenaの元幹部によって、2015年に設立されている。
更年期障害を専門とする医師は不足しており、実際に患者が医療機関を訪れても、適切な治療につなげることができていない。例えば、医師の5人のうち4人は、更年期障害を適切に診断し、対処するトレーニングを受けていない、というデータもある。だからこそ、Gennevのような、気軽に専門家の意見が聞けるプラットフォームには意義がある。Gennevのユーザーで、一番多い感想が、“私は普通だったんだ”という安堵感だ。
ホルモンの関係で、無駄にイライラしたり、プレゼンの前にホットフラッシュを経験したり、不眠に悩まされたりする。これまで正体不明の不調として対処できていなかった症状に、Gennevの看護師や医師と話すことで名前が付けられ、安心する。そして原因がわかれば、対処することもできる。
同社は、更年期女性が働きやすい職場環境を作る啓蒙活動も行っている。調査対象となった女性の45%が、更年期症状のために病気休暇を取らなければならなかったことがあると回答している。キャリアを積んだ彼女たちが働きやすい環境を作れば、企業も恩恵を受けられる。
ほてりの緩和やストレス管理、睡眠の改善に役立つウェアラブルデバイス「Embr Labs」

Embr Labsは更年期向けのウェアラブルデバイスだ。現在、北米のみでの販売にもかかわらず、170カ国以上で7万人以上の顧客を抱えているという。Embr Labsは腕に着けるデバイスから脳に信号を送ることで、ホットフラッシュを落ち着かせることができる。また、睡眠導入も可能だ。
同社は、2013年にMITの材料科学エンジニア3名によって設立された。Johnson & Johnsonイノベーションとも共同研究を行っている。
このデバイスは手首の内側の温度に敏感な皮膚に冷感や温感の「波」を展開。実際に装着すると熱受容体と呼ばれる神経終末によって、この波が検知される。この信号により、脳は自然に温熱感覚を処理してバランスを取り戻し、自律神経系を刺激することで、ほてりの緩和やストレス管理、睡眠の改善に役立つという。
更年期女性向けのウェアラブルデバイスでは、他にもGoogleなどから130万ドル(1.4億円)を調達したThermabandにも注目している。発売後1時間で予約分の60%が売れたことからも、更年期向けの製品が不足しており、見逃された市場であることがうかがえる。
40代以上の女性をターゲットにしたヘアケアブランド「Better Not Younger」

Better Not Youngerは年齢を重ねた女性のためのヘア、頭皮ケアブランド。名前のBetter Not Youngerからもわかる通り、「若さを追求するのではなく、自身のより良い状態を目指す」というコンセプトを持つ。
P&Gやロレアルで幹部として活躍した女性が2018年に立ち上げた。創業者は、これまで数々の商品キャンペーンを担当してきたが、いつもターゲットが44歳以下という点に疑問を持っていたという。45歳以上の女性はどうしてターゲットにならないのか、という純粋な疑問から、同社の設立に至った。
50歳以上の女性を合計すると、彼女たちは、20兆ドル(約2200兆円)の純資産を持っており、平均的な消費者の2.5倍の消費をしているという。従来のヘアケアブランドは、20〜30代のミレニアル世代、白髪の短い髪の女性がパッケージのものしかなく、その間がない。パッケージにもこだわり、今の時代を生きる新しい中年女性が、”こうなりたい”と思えるブランドイメージを創り上げている。
可処分所得が高く、若さだけではない、新たな美の基準を求める。そんな中年女性の心を捉えるようなブランド名である、と個人的には思う。
膣の乾燥や、痛みなどの改善に役立つソフトジェル「Imvexxy」
次に紹介するのは、膣用ソフトジェルを展開するImvexxyだ。同社が販売するジェルは、2018年5月から販売を開始しており、膣の乾燥や、痛みなどを改善に役立つ。
2021年5月、Imvexxyはユーモア溢れるデジタルキャンペーンを発表し話題になった。
動画上では、更年期障害と医薬品による治療の副作用に対処しようとする、魅力的な女王が登場する。更年期のスティグマ(差別・偏見)を跳ね除け、更年期以降の女性の楽しみと力強さを表現している。
同広告のYouTubeテスト時には、75%の人が『広告をスキップする』ボタンを押さなかったという。
ブランド向けに更年期製品の立ち上げ支援を行う「GenM」

GenMは、これまで紹介した消費者向けに更年期向け製品を開発する企業とは異なったアプローチで更年期市場拡大を支援する。同社は、更年期市場を対象とする企業とパートナーシップを組み、企業が更年期症状をより良く理解するための支援をしている。
ウェブサイトを見ると、48の更年期症状が詳細に記載されている。同社は「更年期のGoogle」と自称しており、スコットランドのニコラ・スタージョン首相も、「GenMは最高の更年期サイトだ」とツイートしている。
ブランド支援だけではなく、更年期女性が働きやすい職場を作るための企業向けコンサルティングなども提供しているようだ。
更年期向け製品を手がける女性起業家の共通点
今回は、更年期向けをターゲットにしたメノテックを取り上げた。メノテック領域では伝統的な小売や美容系大企業で経験を積んだ女性が、更年期向け製品の少なさや、更年期世代の女性が大手企業から見逃されていることに気づき、会社設立に至るといったケースが多々ある。
彼女たち自身の経験から立ち上げられているので、同世代の女性を代弁するような製品が多く生まれていると感じる。
生理と同様、更年期もタブーなトピックとされてきた。女性自身が口に出して話さない。もちろん専門家から正しい情報を得ることも大事だが、女性同士が声をあげることも重要だ。更年期世代が発信していくことで、下の世代の啓蒙にもなり、彼女たちが当事者になった時に、慌てなくて済む。女性の身体や健康に関して、もっとオープンに語れるような環境が大事だ。
ユーザー目線のプロダクトやサービスがスタートアップとして出てきて、ユーザーに受け入れられる。そうすれば、大企業がニーズに気づいて、そのスタートアップと提携、買収する、といった流れは今後もメノテックをはじめとするさまざまな領域で続くと考える。