
- 社員が読み込んだ1000冊以上の児童書データを活用し、AI司書がおすすめ本を紹介
- 精度の高いレコメンドのカギは「好み」と「難易度」
- きっかけは保護者からの「小さい頃、どんな本を読んでいましたか?」
- 読書を科学し、再現性のあるオンライン読書教育の実現目指す
現役の東大生が「子どもに読書を好きになってもらうこと」を目指して開発したオンライン習い事サービスが、地道に利用者を増やしている。2020年創業のYondemyが運営する「ヨンデミーオンライン」だ。
サービスの特徴は、子ども一人ひとりの好みや読む力に合わせた本を“AI司書・ヨンデミー先生”がおすすめ(選書)してくれること。本の楽しみ方が学べるチャット形式の対話型学習コンテンツや、ゲーム要素を取り入れた読書のモチベーションを高める仕組みも提供することで、子どもが読書に夢中になるように仕掛ける。
カギを握るのがAI司書による選書の精度だ。その精度を上げるためにYondemyのメンバーたちが自ら「1000冊以上の児童書」を読み込み、独自のデータベースを構築している。
2020年12月のサービス開始から1年弱、無料体験ユーザーを含めて1400人以上がヨンデミーオンラインを受講した。月額2980円の有料会員も増加傾向にあり、さらなる成長を見込んでいる。
そのための資金としてYondemyではXTech Ventures、D4V、W ventures、F Venturesを引受先とした1億円の資金調達を実施した。今後は組織体制を拡充し、子ども向けアプリの機能拡充や保護者向けアプリの開発などを進めていくという。
社員が読み込んだ1000冊以上の児童書データを活用し、AI司書がおすすめ本を紹介

「そろばんや水泳などたくさんの習い事がある中で、その1つのカテゴリーとして『読書を習う』という概念を提唱しています。もともと読書が嫌いな子どもや、本を読む習慣がなかった子どもをサポートすることで、読書を好きになってもらい、その先の成長につなげていくことを目指しています」
Yondemyで代表取締役を務める笹沼颯太氏はヨンデミーオンラインのコンセプトをそのように説明する。
同サービスは最初にチャット形式で本の好みに関する質問に答えた後、簡単なテストに回答するところからスタートする。この結果をもとに、ヨンデミー先生から各ユーザーに合った児童書が5冊ほど紹介される仕組みだ。
サービスの利用料は月額2980円で初月は無料。おすすめされる本の冊数は制限がなく
「3冊読めば新たな3冊が補充される」といったように、増えていく。あくまで本を選ぶサポートをする役割に徹しているため、本自体はユーザーが書店で買うなり、図書館で借りるなりする必要がある。
笹沼氏によると、AI司書がヨンデミーオンラインの大きな特徴ではあるものの「単なる選書サービスではなく、コーチングのようなかたちで読書の習慣化を支援する」ことを意識して開発しているという。

読む前のサポートとして、チャット形式のクイズ型レッスンや本の内容を紹介した動画コンテンツを配信することで、本の楽しみ方や心構えを伝える。本を読んだ後も、ほかのヨンデミー生と感想を共有できるコミュニティや読んだ本に応じてバッジが集まる機能によって読書のモチベーション維持を支える。
保護者向けにはLINEを通じて読書指導ノウハウの提供も実施しているそうだ。
ヨンデミーオンラインでは主に5〜15歳の子どもを対象としており、ボリュームゾーンは小学1年生から4年生くらいまでの年代。これまで1400人以上のユーザーにサービスを提供している。
ユーザーからは「入会前は週に1冊も本を読まなかったような子どもが毎日本を読むように変わった」「クラスで1番本を読んでいるような読書好きになった」といった声が届くなど、サービスの成長とともに成功事例も増えてきた。保護者からも子どもの行動の変化や成長に対して価値を感じてもらえているという。

精度の高いレコメンドのカギは「好み」と「難易度」
子どもに読書を好きになってもらうためには何が必要なのか。笹沼氏がポイントに上げるのが「好み」と「難易度(レベル)」だ。
先生や親がどれだけ本を勧めたとしても、自身の好みとかけ離れてしまっていては子どもは前向きに読書に取り組みづらい。また本の内容がその子どもにとって難しすぎると、途中で離脱してしまう原因になってしまうだろう。
反対にこの障壁をうまく取っ払うことができれば、子どもが読書に夢中になれる可能性も高まる。だからこそ笹沼氏たちは独自の児童書データベースを作り、ユーザーの好みとレベルに適した本を紹介できる仕組みを作ることにした。
好みのデータについては、自分たちで児童書を手当たり次第に読みこみ、本の特徴に関する多様な“タグ”を1冊ずつ入力している。たとえば主人公の性格が「好奇心旺盛」なのか「クール」なのかは子どもの好みに大きな影響を与える。「ファンタジー」や「冒険」など本のジャンルも重要だ。
このように主人公の性別や性格から本のジャンル、題材、主要なメッセージ、読み手の感情に至るまで、丁寧にタグを付与していく。細かく分けるとこの項目の数は約200種類にも及ぶそうだ。
好みのデータは本をおすすめする際のキモになるからこそ、1冊2人体制のダブルチェック方式でデータ化を進めているという。


そうすることで「この本を読んだ他のユーザーは、他にもこんな本を読んでいます」といった“人”を軸とするレコメンドではなく、「この本が好きなら、(同じような特徴を持った)こちらの本もおすすめ」という“本の内容”に着目したレコメンドができる。
「実際に司書の方が新たな本を薦める際にも、本の内容を軸に考えることが多いです。だからヨンデミーオンラインでもリアルな司書の方に寄せた暖かみのある体験を実現することを意識しました。また『なぜおすすめ』なのかの根拠がしっかりとしていることも重要で、それが明確であることがヨンデミー先生への信頼にもつながると考えています」(笹沼氏)

もう1つのポイントである「本のレベル」については、複数の要素を基に「YL(ヨンデミーレベル)」というスコアを自動で算出している。
基準になるのは漢字の多さや音読みと訓読みの割合、一文当たりの長さなど。テキストデータを自然言語処理技術を活用して解析し、「30.3」「50.6」といったスコアをつける。
海外ではLexile指数という読解力の指標が普及しており、この指数が書籍を選ぶ際の道しるべとしても使われているが、日本にはそのような指標がない。
「結果的に『3年生におすすめ』のように学年などがその指標として使われています。ただ同じ3年生でも読書好きな子と読書が苦手な子では、全然状況が違う。書店の方からも他に参考にできる基準がなく、困っていると聞きます」(笹沼氏)

きっかけは保護者からの「小さい頃、どんな本を読んでいましたか?」
Yondemyは笹沼氏を含む3人の現役東大生が立ち上げたスタートアップだ。
創業メンバーは筑波大学附属駒場中学・高校時代からの同級生。家庭教師のアルバイトをしていた際の体験がきっかけとなり、ヨンデミーオンラインの開発に至ったという。
「僕や同じバイトをしていた友人の中で“あるある”だったのが、保護者の方から『小さい頃、どんな本を読んでいましたか?』と聞かれることでした。僕が担当していた中学生は国語が苦手で、他教科の教科書を正しく読み進めるのに苦労していて。塾で相談すると『本を読んでください』と言われるものの、実際にどんな本を読んだらいいのか、どのように読んだらいいのかといったことは教えてもらえかったそうです」
「考えてみれば、世の中にも『東大生が読んでいる本ランキング』のように本を紹介するランキングはたくさんあるけれど、本を読むための方法自体を教えてくれる仕組みはない。そこに課題を感じました」(笹沼氏)
笹沼氏はSEGという「多読」を通じて英語力の向上を支援する学習塾で講師を務めていたため、英語に限定されるものの子どもに読書指導をした経験があった。そもそも笹沼氏自身も中学生時代に生徒としてSEGに通い、本を読むことで苦手だった英語を克服した実体験もある。
その考え方を日本語の本にも当てはめたサービスがあれば面白いかもしれない──。楽しむことを大切にしながらも、教育的なアプローチから読書をもっと身近にしていく。そこにAI司書やチャットボットなどのテクノロジーを取り入れることで、より多くのが子どもが読書を楽しめる仕組みを作る。
そのような考えから、ヨンデミーオンラインの構想が生まれたという。サービス開発に当たっては、笹沼氏は大きく3段階に分けてアイデアを検証することから始めた。
まずは「東大生が無料で読書の家庭教師をします」という触れ込みで、対面の読書指導によって生徒の読書習慣がどのように変化するのかを観察する。次のステップではLINEやZoomを活用してオンライン型のレッスンに切り替えてみた。そして最後の段階ではチャットボットのような仕組みを取り入れながら、人手をかける部分を減らしていった。
この3ステップを、それぞれ3人の生徒に試してもらった。ある生徒は読書や国語が嫌いで、心配した保護者が国語専門の塾に通わせていた。以前は自分から本を手に取ることはほとんどなかったが、笹沼氏たちの指導をきっかけに暇な時間には自ら本を読むようになったという。
「次第に『●●(書籍名)の、この部分が面白かった』と自分から本の話をしてくれるようになりました。こうした体験を通じて、子どもたちの『読書嫌い』は嘘で、単に苦手なだけなのだと痛感したんです。やり方さえわかれば、読書は楽しくなるはずだと」(笹沼氏)

読書を科学し、再現性のあるオンライン読書教育の実現目指す
自分たちのアイデアに手応えをつかめたため、2020年4月にYondemyを立ち上げ、本格的にサービスの開発を開始。12月のローンチまでは創業メンバー3人で図書館に通い詰め、200〜300冊分の児童書データを用意した。
2〜3日おきに図書館に行っては大量の児童書を借りていたので「周りから見れば怪しいグループだったかもしれません」と笹沼氏は当時を振り返る。
現在はチームメンバーも増え、児童書のデータは1000冊を超えた。今後も児童書の量を拡充するほか、読む前後の体験のアップデートも計画している。

たとえば「コミュニティ」は強化ポイントの1つ。何かに取り組む際、仲間がいれば熱中度はさらに上がる。同じクラスに本好きな子どもがいなくても、ヨンデミーオンラインに来れば“読書で”仲間と繋がれる。そのようなコミュニティを作っていきたいという。
近年はYouTubeやTikTok、スマホゲームなど魅力的なコンテンツが増え、小学生の1日あたりのインターネット時間も増加傾向にある。一方で「子どもの読書離れ」が進み、社会課題とされている。笹沼氏たちが目指すのは、ヨンデミーオンラインをこの課題の解決策として広げていくことだ。
上述したとおりサービスとしてはまだ始まったばかりの状態であり、ビジネスの規模としても現時点では小さい。ただデータやテクノロジーの活用によって「読書を科学」し、再現性のあるオンライン読書教育を実現できれば、日本中の子どもたちへ豊かな読書体験を届けられる可能性もある。
「本が読めればなんでも学ぶことができます。英語もプログラミングもビジネスもアートも、全て本に書いてあります。読書という学びの手段を譲り渡すことで、子どもたちが自分の幸せのために必要なことを、必要なときに不自由なく学べるようにもなる。そんな子どもたちの将来の可能性を最大限に広げる教育を実現していきたいです」(笹沼氏)