
- ゲーム事業「デジタルエンタテインメント事業」は減収減益
- 「2(+1)タイトル」で売上の21.4%を稼ぐMMO収益
- GaaSはゲームビジネスの救世主となり得るのか
家庭用ゲーム大手の任天堂やソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)も積極的な姿勢を見せるサブスクリプションサービス(定額制サービス、以下サブスク)。次はスクウェア・エニックス・ホールディングス(スクエニHD)の今についてお伝えする。
スクエニHDは11月5日、2022年3月期第2四半期の決算を発表した。発表によると、上期の売上高は1689億円で前年同期比38億円減。通期計画は3400億円で前期比では75億円増の業績見通しだ。上期純利益は229億円で前年同期比69億円増、通期計画では240億円で前期比29億円減と想定されている。
ゲーム事業「デジタルエンタテインメント事業」は減収減益
各事業別の数字を確認してみると、デジタルエンタテインメント事業は前年同期比で売上高が130億円の減収、営業利益も44億円減という、減収減益となった。

同社のデジタルエンタテインメント事業とは、簡単に言えばゲームソフト事業のことだ。ゲーム専用機向けのゲームだけではなく、パソコン用やスマートフォン用ゲームの収益もここにカウントされる。そこで、デジタルエンタテインメント事業の売上を、ゲームの種類ごとに分けているのが以下の図だ。

デジタルエンタテインメント事業の売上比率はスマートフォン・PCブラウザゲームが48.1%、HDゲームが30.5%、MMOは21.4%となっている。
この結果をざっくり分析すれば、約半分がスマートフォンアプリの課金収入。残りの3割超がゲーム機用ゲームソフトで、2割超がMMORPGからの収入ということになる。
スマートフォン用アプリは運営中のものだけでも、相当なタイトル数になる。以下に挙げたものは、スクエニの代表的なIPである『ドラゴンクエスト』と『ファイナルファンタジー』関連のものだけをピックアップしたものだ。これらアプリの課金収入が、同社の利益の48.1%を支えている。
『ドラクエ』IPアプリ
- 『ドラゴンクエストモンスターズ スーパーライト』
- 『星のドラゴンクエスト』
- 『ドラゴンクエストウォーク』
- 『ドラゴンクエストタクト』
- 『ドラゴンクエスト ダイの大冒険 -魂の絆-』
『FF』IPアプリ
- 『ファイナルファンタジーレコードキーパー』
- 『ファイナルファンタジーブレイブエクスヴィアス』
- 『ディシディア ファイナルファンタジー オペラオムニア』
- 『WAR OF THE VISIONS ファイナルファンタジー ブレイブエクスヴィアス 幻影戦争』
「2(+1)タイトル」で売上の21.4%を稼ぐMMO収益
筆者が驚いたのは、売上比率の21.4%をMMOが稼いでいるという結果だった。MMO(Massively Multiplayer Online)とは、簡単に言えば大人数が同時にプレイできるオンラインゲームのことだ。同社が運営中のMMOと言えば、『ファイナルファンタジーXIV』と『ドラゴンクエストX』そして『ファイナルファンタジーXI』という3タイトルのRPG(ロールプレイングゲーム)だ。
MMO月額料金(税込金額)
- ファイナルファンタジーXIV 1408円~
- ファイナルファンタジーXI 1298円~
- ドラゴンクエストX 1000円~
このうち、『ファイナルファンタジーXI』は2002年からサービスを開始している上、新タイトルの『ファイナルファンタジーXIV』へ移行した人も多いため、事実上アクティブなサービスとしては『ファイナルファンタジーXIV』と『ドラゴンクエストX』の2タイトルと考えても問題はない。
MMOの利用料金は、月額利用料というかたちで支払うことになる。これも一種のサブスクと考えてもいいだろう。運営側から見たサブスクの利点は多い。例えば買い切りのゲームソフトを販売した場合には、ソフトごとに開発・宣伝・販売を行うことになるため、タイトルごとに当たり外れが出てくる。
過去の記事「任天堂がスイッチでこれまでの「倍額」のサブスクを開始した意図」でも説明したが、ゲームメーカーの多くはサブスクによる安定収入を得るための手法を模索するようになっている。当然、サブスクの自動更新による「更新の切り忘れ」という特性も含めての戦略だ。
MMOの月額料金システムは、こうしたサブスクの仕組みよりもさらに、強い「継続したくなる心理」が働く。
ドラゴンクエストやファイナルファンタジーなどのRPGファンであれば、「一度クリアしたあと触っていなかったけど、久々にエンディングを見ようかな」と、再びソフトを起動したくなる気持ちは理解できるのではないか。
MMOはこのセーブデータが(不正を防ぐという目的もあり)クラウドのサーバ上に保存されている。このため、自分のセーブデータは月額料金を支払い続けている間のみ、ゲームメーカーがサーバの多重バックアップなどを駆使してセーブデータを「保証」してくれている。逆に言えば、月額料金の解約はつまり、自分のセーブデータとの別れということも意味している。
スタンドアロンで遊ぶ1人用のRPGと違い、オンラインRPGの方がエンディングまでのプレイ時間は長くなりがち。それに加えて、ゲームメーカーとしては継続プレイを促すために、定期的に新シナリオを追加しているため、そのゲーム自体が好みであれば、果てしなく「やることがある」状態になっている。2002年に発売した『ファイナルファンタジーXI』ですら、発売後19年が経過した2021年11月10日に新シナリオ「蝕世のエンブリオ」を追加するなど、継続ユーザー向けのケアが続いている。
ユーザーが少なくなればメーカーの収入は減るが、それでも一定数のユーザーが月額料金を支払い続けている限りはサーバを管理し、データ消失がないように定期的なバックアップやメンテナンスを実施する。利益率が高いビジネスとは言えないが、安定した収入になるため、ゲームメーカーもサービスを継続しているという図式だ。
そして決算説明資料を見る限り、ユーザーからの支持が得られたMMOは、メーカーにとって大きな収益の柱になっているということが数字として明らかになった。
しかし『ファイナルファンタジーXIV』はバージョン1.0の完成度が低く、ユーザーから大批判を受けてサービスを一時中断したことがあった。MMOだから売れるというわけではなく、1.0での失敗を教訓に送り出したバージョン2.0『新生エオルゼア』以降も引き続き高いクオリティをキープし続けているからこそ、『ファイナルファンタジーXIV』は現在もなお人気を保っている。
家庭用ゲーム機向けソフトにサブスクの可能性はあるのか?最後に、「HDゲーム」と呼ばれる家庭用ゲーム機向けソフトについても触れておこう。
4~9月では過去の名作を現行機種向けへHD移植するタイトルが目立ち、新規タイトルとしては4月の『OUTRIDERS』と、7月の『新すばらしきこのせかい』のみ(6月に発売した『ファイナルファンタジーVIIリメイク』は、昨年発売したPS4版をPS5版にアップグレードしたもの)。
この『新すばらしきこのせかい』のみ(おそらく客層を意識して)、PS4とニンテンドースイッチという2機種での発売だが、残りはほぼすべて、PS4とXbox One、Steamというマルチプラットフォームで販売しているのは、本サイトに掲載した記事「世界的ヒット『モンハン』のカプコンも急ぎかじを切る、PCゲームビジネスの破壊力」で説明した通り。
ここで一つ、触れておきたいニュース記事がある。スクウェア・エニックスHDの決算発表と時を同じくして、米国のゲーム情報サイト「VIDEOGAMES CHRONICLE」に掲載された、松田洋祐社長のインタビューだ。
インタビューの中で、松田社長は同社のHDゲーム『Marvel's Avengers』はGaaS(Games as a Service)モデルに挑戦したタイトルだったが、それは失敗に終わったとコメントしている。
GaaSはゲームビジネスの救世主となり得るのか
まずは、GaaS(Games as a Services)の定義から、簡単に説明しておこう。これは本サイトの記事「なぜ発売後2年以上のゲームソフトがいまだに売れるのか?」でも説明しているが、「たくさんゲームを発売して、売れたゲームの続編を作る」ビジネスから、売れるタイトルの追加コンテンツを有料で販売し、ヒットしたゲームを末永く遊んでもらうという方針への変換だ。
ただし、この課金モデルをユーザーがすんなり受け入れてくれるかは、ソフトの性質や、課金される「対象」によって大きく変わるということに注意したい。
『Marvel's Avengers』は、ゲーム発売後に操作可能なキャラクターを追加したり、期間限定イベントを開催したりして、長期的にユーザーを楽しませられるような設計になっている。そのアップデートは現在も継続中なのだが、10月に発売した有料DLCのせいで、ユーザーの反発を買ってしまったのである。
そのDLCとは、経験値やゲーム内通貨の入手量が多くなるアイテム「Hero’s Catalysts」と「Fragment Extractors」。F2P(基本無料)のゲームならばまだしも、フルプライスのソフトを購入した上でさらに課金した人だけが有利になるというこのアイテムは、ユーザーからの大きな批判を招いた。猛反発を受けた結果、両アイテムの販売は中止に追い込まれた。
各キャラクターの追加コスチュームを有料で販売しても、クレームを付けるユーザーはほとんどいない。金額に見合うだけの価値を感じる人だけ買えばいいからだ。しかし経験値ブーストアイテムについては全ユーザーに関係することで、かつ不公平感が強かったため、このような大騒動に発展した。この騒動の影響で、今後『Marvel's Avengers』用の有料DLCを販売するのは相当慎重にならざるを得なくなったはずだ。
ゲームソフトによるビジネスは、これまでの買い切り方式から、少しずつでもGaaSへの移行を考えているメーカーは多い。しかし課金対象となる内容はユーザーの納得感を最優先に考え、慎重に検討する必要があるということを思い知らされた一件だ。
MMOの月額利用料やゲームソフトのGaaSなど、ゲームメーカーが生き残りをかけて行うビジネスモデルの変革は、これからもまだ続きそうだ。