位置情報システム「what3words」のイメージ
位置情報システム「what3words」のイメージ
  • モビリティや物流領域での活用が進む
  • コロナ禍でのEC需要拡大で利用が加速
  • 日本でもECやデリバリーでの利用を想定

「世界を3メートル四方で区切り、ランダムな3単語で特定する地図アプリ。『つづき。ほこる。しゅうり』は富士山が見える絶妙スポット」

最近テレビで流れるこんなCM。登場する地図アプリの正体は、イギリスのスタートアップが展開する位置情報システム「what3words」だ。

what3wordsでは地球上を57兆個のマスに分割し、3単語で表現する。マスの大きさは3メートル四方で住所よりもピンポイントの位置情報を伝えることができる。例えば待ち合わせの際に、建物の住所ではなく、建物の入口の場所を相手に指定することが可能だ。ちなみにDIAMOND SIGNALを運営するダイヤモンド社の入口は、「ぶひん。いかやき。てのこう」の3単語で示される。

what3wordsは2013年にローンチ。以降はイギリスやドイツなど、ヨーロッパの諸国を中心に利用が進んできた。今では日本語、韓国語、中国語を含む50言語に対応しており、ここ日本でも利用者が徐々に増加している。

11月より日本でのマーケティング活動を本格化したwhat3words。だが、まだなじみのない人も多いだろう。そこで筆者はサービスを提供するwhat3words CEOのクリス・シェルドリック氏を取材し、最新の活用事例を聞いた。

モビリティや物流領域での活用が進む

what3wordsでは3つの単語を入力するだけで住所を指定できる。従来の住所を入力するよりも簡単だ。そのため自動車メーカーに重宝されており、各社のカーナビゲーションシステムに導入されている。what3wordsのマネタイズ手段は、法人向けの課金だ。企業がwhat3wordsを組み込んだシステムを開発した際、そのシステム上での検索1回につき一定の金額を同社に支払うかたちだ。

最初に目をつけた自動車メーカーはメルセデス・ベンツだった。2019年には「A-Class」や「B-Class」、「Sprinter」などの一部車種で、what3wordsを使った目的地の音声入力が可能となった。

以降も自動車メーカーとの連携が続いた。フォードやロータス・カーズ、そして直近では三菱自動車がwhat3wordsを導入。三菱自動車は2020年12月に発売開始したSUV(Sports Utility Vehicle)の「エクリプス クロス」でwhat3wordsを使用可能にした。

高級スポーツカーメーカーのランボルギーニも今後、「Huracan(ウラカン)」という車種にwhat3wordsを搭載予定だ。

ランボルギーニの「Huracan」に導入予定のカーナビゲーションシステム
ランボルギーニの「Huracan」に導入予定のカーナビゲーションシステム

シェルドリック氏は「エクリプス クロスはアウトドアを楽しむためのSUVです。そのためオフラインでもwhat3wordsを使えるようにしました。またランボルギーニのドライバーの多くはVIP。what3wordsを搭載することで、例えばイベント会場の“関係者入口”に迷わず到着することが可能です」と話す。

what3words CEOのクリス・シェルドリック氏
what3words CEOのクリス・シェルドリック氏

コロナ禍でのEC需要拡大で利用が加速

配送事業者の「Hermes」や日用品のデリバリーサービス「Weezy」もwhat3wordsを導入している。シェルドリック氏は「デリバリーサービスは10〜20分で商品を届けることをウリにしています。配達先の部屋を探すのに20分かかってしまっては間に合わない。そこでwhat3wordsが力を発揮するのです」と述べる。またデリバリーサービスがwhat3wordsを導入することで、「例えば公園でピクニックやバーベキューをしている場所を指定することができる」とも同氏は言う。

2020年12月にはイギリスの郵便事業者であるRoyal Mailがwhat3wordsを用いたドローン配達の実証実験を開始するなど、活用の幅が広がっている状況だ。

シェルドリック氏によると、2020年以降、新型コロナウイルスの感染拡大が引き金となり、what3wordsの利用は急伸した。外出自粛によってEC需要が拡大し、それに伴ってwhat3wordsの利用者も増えたのだ。2020年4月から8月にかけて、全世界での利用数は430パーセント増加したという。

日本でもECやデリバリーでの利用を想定

日本でもwhat3wordsを活用したユニークな取り組みが増えてきている。what3wordsは2018年11月にSony Innovation Fundからの資金調達を発表。以降はソニーの関連会社、S.RIDE(エスライド)が運営するタクシー配車サービスアプリ「S.RIDE」にwhat3wordsが導入されている。

2020年3月にはNAVITIME JAPANが提供する訪日外国人観光客向けのナビゲーションサービス「Japan Travel by NAVITIME」でwhat3wordsが使用可能に。そして最近ではwhat3wordsを搭載したヘルメットも登場した。スマートプロダクトを開発するBorderlessが販売するヘルメットの「クロスヘルメット X1」はwhat3wordsを搭載しており、運転中でも目的地を音声入力できる。

what3wordsを搭載する「クロスヘルメット X1」
what3wordsを搭載する「クロスヘルメット X1」

シェルドリック氏いわく、日本でも徐々にユーザーが増えてきており、2021年9月から約3カ月で、MAU(月間アクティブユーザー)は79パーセント増加したという。

シェルドリック氏は「より多くの自動車メーカーとの連携を実現することが、日本市場における最重要ミッション」と説明。そして「フードデリバリーサービスやECプラットフォームとの連携も実現したい」と付け加えた。

「住所という仕組みはさほど正確なシステムではありません。イギリスの田舎に住む私の母は、荷物が隣の家に届くこともあり、困っています。ここ日本でも同じような悩みを抱えている人は多いはずです」

「what3wordsを活用すればフードデリバリーサービスの配達員も配達時間を短縮することができる。注文者が住まいの入口の3メートル四方を受け取り場所に指定することで、サービスの業務効率を大幅に改善することが可能なのです」(シェルドリック氏)