「Cameo」でメッセージ動画に応じるスヌープ・ドッグ氏 Cameoの公式Youtube動画のスクリーンショット
「Cameo」でメッセージ動画に応じるスヌープ・ドッグ氏 Cameoの公式Youtube動画のスクリーンショット
  • ソフトバンクも参加したシリーズCラウンドでユニコーン企業に
  • ボクシング界のレジェンドから一般人までもが登録
  • 急伸の背景をデータから読み解く

アメリカやヨーロッパを中心に、世界で急成長中のサービスがある。有名人に動画メッセージを依頼できる、動画特注プラットフォームの「Cameo」だ。2020年だけでも130万以上の動画メッセージが作成され、ファンのもとに届けられたという。追随サービスは日本を含む世界各国で続々と誕生し、今までになかった新しい産業を形成しつつある。

Cameoが急成長する背景を、ベンチャーキャピタル・Headline Asiaの林政泰氏が解説する。

ソフトバンクも参加したシリーズCラウンドでユニコーン企業に

「やぁ、ジョナサン、元気かい。そう、スヌープ・ドッグだよ! 誕生日おめでとう!」

このように、たとえ短尺でも、大好きな有名人から誕生日祝いの動画メッセージが送られてきたら、誰もが大興奮するだろう。

だが、これまでは知り合いでもない限り、有名人に動画メッセージを依頼することは無理に等しかった。有名人としても、たとえ依頼に応じたとしても、金銭的な見返りを求めることは難しかった。そこに誕生したのが、ファンと有名人を結ぶ動画特注プラットフォームのCameoだ。

Cameoを展開するBaron Appは2017年にアメリカで設立したスタートアップだ。2021年3月にシリーズCラウンドで1億ドル(約114億円)の資金を調達。評価額は10億ドル(約1100億円)を超え、ユニコーン企業の仲間入りを果たした。同ラウンドにはソフトバンクグループの10兆円ファンド、ソフトバンク・ビジョン・ファンドや、Lightspeed Venture Partners、Amazon Alexa Fundなど、名だたる投資家が名を連ねた(編集部注:著者の林氏が所属するHeadlineは同ラウンドのリード投資家(旧:e.veuntures))。

ボクシング界のレジェンドから一般人までもが登録

現在、Cameoには俳優、歌手、コメディアン、アスリート、インフルエンサー、起業家を含む、3万人以上の有名人が登録する。ユーザーは有名人が指定した料金を支払い、希望するメッセージ内容を送信。すると数日後には、有名人が撮影した動画メッセージが届く。多くの動画は家族や友人、恋人へのプレゼントとして依頼されている。

金額は有名人によってさまざまだ。有名ドラマの脇役を演じた俳優や、数十年前にヒットしたミュージシャンであれば、500〜1000円程度で依頼できる。ボクシング界のレジェンド、マイク・タイソン氏は220万円と極端な料金に設定しているが、多くの有名人は数万円から数十万円程度での依頼を受け付けている。ただし有名人はすべてのリクエストに応じるわけではない。キャンセルの場合は全額が返金される。

最近では登録の敷居が低くなり、一般人でも登録できるようになった。そのため、1ドル、ないしは無料で依頼に応じるアカウントも存在する。なお、Cameoの社員への依頼も可能で、たとえばCTOのデヴォン・スピンラー氏は1200円で依頼を受け付けている。

「Cameo」サイトのスクリーンショット
「Cameo」サイトのスクリーンショット

急伸の背景をデータから読み解く

Cameoを追随するプラットフォームは世界中で続々と誕生してきている。アメリカやヨーロッパなど英語圏では「Memmo」、「Starsona」、「Celeb VM」、「Omaze」といったサービスが展開。インドでは「Tring」や「WYSH」、東南アジアでは「ACE」、「SendJoy」や「Gueststar」、中国では「iLiyu」といったプラットフォームが成長中だ。日本からも、Headline Asiaが運営するピッチコンテストLAUNCHPADに登壇した「CELEBRATE MESSAGE」と「fansa」に加え、「PASU」、「Fanglee」、「okuly」といったプレーヤーが出てきた。

動画特注プラットフォームはCameoに限らず、競合サービスも急成長している。以下はウェブ上のさまざまな公開情報を収集し分析するHeadlineの自社開発ツール「EVA」で抽出した、Cameoに関するデータだ。

上はサイトやアプリでクレジットカード決済が行われた回数や金額を示したもの。下は異なる角度からサイトとアプリのトラフィックを測定したデータだ。サイト内の決済額は1年で約5倍に拡大し、トラフィックは10倍ほどにまで伸びていることが分かる。前述のMemmo、Omazeといった競合サービスでも同様の成長が確認できた。

では最後に、上記データも用いた上で、なぜCameoが急成長を果たしたのか、解説していこう。

パンデミックによる外出自粛

決済回数、額、そしてトラフィックが伸び始めたタイミングは、アメリカやヨーロッパが新型コロナウイルスの影響を受け始めた時期と一致している。外出自粛により、ウェブサービスは多くの新規顧客を獲得。そして物流が医薬品や生活必需品の運送でひっ迫する中、ECではない“デジタル”なプレゼントの需要が高まった。有名人もコロナが原因で収入が減り、新たな収益源としての1つとしてCameoのようなサービスが選ばれた。

スヌープ・ドッグ氏の登録

Cameoはローンチ当初から、いわゆる“B級セレブ”の獲得に注力してきた。と言うより、B級セレブしか獲得できなかった。一流の有名人は小銭を稼ぐ必要がなく、また、「生活苦を理由に動画メッセージに対応していると思われたくない」、「B級セレブと一緒くたにされたくない」などと考えていたためだ。

そんな中、老若男女問わず、多くの熱心なファンを抱えるスヌープ・ドッグ氏がCameoに登録したことで、状況は一変した。スヌープ・ドッグ氏の動画メッセージはSNSで拡散され、多くのファンに喜ばれた。イメージアップや知名度アップにつながったことから、他の有名人もCameoに登録するように。結果としてユーザー数も拡大した。

クリエイターエコノミーの台頭

テレビやラジオの全盛期は終わり、今では「YouTube」、「TikTok」、「Twitch」や「17LIVE」といったさまざまな配信プラットフォームが登場してきた。そこでは個人のクリエイターが自らコンテンツを配信することで、ファンを獲得し、マネタイズしている。クリエイターは、これまで大物な有名人には興味がなかった層でも応援できる、“ニッチ”な有名人とも言えるだろう。

クリエイターやそのファンが増え続けるこの時代は、Cameoのようなツー・サイド・プラットフォーム(編集部注:売り手と買い手を結ぶプラットフォーム)にとって絶好の時だと言えるだろう。