Photo:PIXTA
  • 33万円支払い「悩み相談」する今ドキの自己投資
  • 「空気を読みすぎてしまう癖」を変える
  • 転職だけがゴールではない
  • 選択肢ばかり増えた20代の迷い

若者を中心に、他人に人生やキャリアを“相談”するサービスが流行している。中でも、転職の相談ができるサービス「ゲキサポ!転職」は、2カ月で33万円と高額にもかかわらず、相談する若者が続々と増えている。時計や車などのモノにお金をかける代わりに、将来に自己投資をする行動から垣間見える、ゆとり世代の焦燥感や時代背景に迫る。(ダイヤモンド編集部 塙 花梨)

 日本の若者は“自己肯定感”が低い――これは、もはや定説になりつつある。

 内閣府が2019年に発表した「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」よれば、調査対象となった満13~29歳までの男女1000人のうち、「自分自身に満足している」と回答した者の割合は、諸外国(韓国、米国、イギリス、ドイツ、フランス、スウェーデン)が平均7~8割なのに対して、日本は5割弱。また、「自分には長所がある」と思っている者の割合も、諸外国が平均8~9割なのに対して、日本は6割強と圧倒的に低い結果が出た。この調査は2013年にも実施されており、その調査結果と比較しても、低下しているのだ。

 こうした自己肯定感の低さからくる、若者たちの「不安や悩みを誰かに相談したい」という思いが新たな需要を生み出している。人生や恋愛、キャリアを“相談”するサービスが流行しているのだ。

 例えば、個人のスキルを売買できるサービスの「ココナラ」では、有料の人生相談や占いの人気が高い。また、LINE上で占い師にチャットで相談ができるサービス「トーク占い」は、開始から3年で総鑑定数93万人を超えている。

33万円支払い「悩み相談」する今ドキの自己投資

 そんな相談サービスの中でも注目したいのが、2019年9月から開始したキャリア相談サービス「ゲキサポ!転職」だ。ユーザーの特性に合わせて、コーチングやカウンセリング経験を積んだアドバイザーが付き、マンツーマンで自身のキャリアを見つめ直すことができるという内容だ。驚くべきはその受講料である。対面8回とチャットでのサポートで、「2カ月33万円」(2020年2月24日時点)なのだ。

 33万円を支払ってでも、キャリアのカウンセリングを受けたいという若者は後を絶たず、リリース開始から半年ほどで、利用者は20代を中心に数百人の規模になっている。

ゲキサポのサービス画面 提供:ポジウィル

 ゲキサポは転職エージェントとは異なり、就職先を紹介するわけではない。あくまでユーザーの“相談”に乗ること自体がサービスになっている。米国では、周囲に対しても転職活動をオープンにすることが少なくないが、日本では周囲には隠して転職活動をするケースが多い。そのため、転職で悩んだ時にフラットなアドバイスがもらえる機会は意外と少なく、貴重なのだ。

 実際に2カ月間のサービスを受講し終えた20代のある男性は「辛かった仕事が楽しくなりました。このリターンを考えれば、時計や車を買うよりもよっぽど安い自己投資」だと満足気に振り返る。

「空気を読みすぎてしまう癖」を変える

 具体的なユーザー事例を紹介しよう。ゲキサポユーザーであるOさん(24歳・女性)は、海外の大学を卒業後、コンサルティング会社に就職した。だが、会社のカルチャーになじめず、入社1年をたたずしてストレスから体調を崩してしまった。産業医に休職するよう告げられ、思い切って退職を決意した。

「『とにかくこの会社にいたくない』という一心で辞めたものの、転職をして何がやりたいのか正直わかりませんでした。また、就活の時に深く考えず会社を選んでしまったせいでなじめなかったこともあり、1年足らずの社会経験で正しい転職ができるのか不安でした」(Oさん)

 そこで、第三者の意見やアドバイスを聞きたいと考え、ゲキサポに申し込んだ。ゲキサポでコーチング経験者のあるトレーナーから、自身の内面と向き合う「自己分析」を主軸にした面談を受けつつ、自身で転職活動を進めた。

「空気を読みすぎてしまう私の性格が、前職でうまくいかなかった原因のひとつでした。面談を通してそれを理解したトレーナーさんから『もっと自分の感覚に意識を向けてみて』とアドバイスをもらって。それからだんだん、自分の中で生じる喜怒哀楽や、ささいな変化に気付くようになっていき、自分の意見や気持ちを言えるようになりました」(Oさん)

 Oさんが、このカウンセリングにより自分の性格に気付き、以前に比べて自分を大事にできるようになったことで、転職活動にも効果が現れた。「合わないと感じる企業はすぐに断り、自分自身が興味を持つ企業や仕事が、直感的にわかるようになった」のだと言う。そして、外資系の事業会社で業務改善を担うプロジェクトマネージャーへと納得のいく転職を果たし、今は生き生きと働いている。

転職だけがゴールではない

 都内の人材会社で営業職をしていたKさん(28歳・男性)も、ゲキサポユーザーの1人だ。上司と性格が合わず精神的に苦痛を感じ、休職か転職を視野に入れつつサービスに申し込んだ。「このタイミングで客観的に自分の人生の棚卸しをしたかった。全部さらけ出す覚悟で臨みました」(Kさん)

オンライン電話で相談する様子 提供:ポジウィル

 週に一度の面談と毎日のチャット相談を通して自己分析を行い、6回目の面談を受けたあと、状況が一変した。これまでは大の苦手だった営業で、成績を残せるようになったのだ。

「過去に営業職を経験してきたトレーナーさんのアドバイスのおかげでした。面談の中で『売ろうとするのではなく、お客さんのことを一番考える』という営業の極意を教えてもらい、仕事へのスタンスが変わったんです。結果が出るにつれ自信がついてきて、自然と仕事が楽しくなりました」(Kさん)

 その結果、転職してもしなくても楽しく働けるようになったKさんは、今の職場に残ることを決めた。

「自分が変われば環境も変わっていくのだと実感しました。苦しい時期って、1人ではとても自分を見つめ直せないですけど、一緒に見てくれる人がいると、どうにか振り返ることができるんです。人生がつらくてどうしようもない人や、『自分は社会不適合者だ』と悲観している人は、一度でいいから諦めずに相談してみてほしい。たった1人でも自分のことを信じて認めてくれる人がいれば、意外と頑張れるものです」(Kさん)

選択肢ばかり増えた20代の迷い

 ゲキサポを提供しているスタートアップ企業・ポジウィル代表取締役の金井芽衣氏は、ゲキサポを“キャリアのライザップ”と呼んでいる。申し込んでくる若者の多くが「ダイエットしようとしても、何をしたらいいか分からないように、何が正しいかわからなくて不安な人」だと言うのだ。

「具体的な転職意向までは固まっておらず、『今の会社でいいのかな』とか『やりたいことが見つからない』とか、ぼんやりとした悩みを抱えている場合がほとんど。悩みの内容を一緒に整理して、常に相談する相手を欲しているんです」(金井氏)

ポジウィル代表取締役社長・金井芽衣氏 提供:ポジウィル

 起業のきっかけになったのは金井氏のTwitter。もともと別のサービスを運営していた金井氏が「無料で10分間、キャリアの診断をします」とツイートしたところ、すぐに100人の応募があったのだという。

 実際に話してみると、「引き続きお金支払ってでも相談を続けたい」という要望が続々と届き、まずはオンライン相談サービス「そうだんドットミー」を2017年8月にリリースした。そうだんドットミーはこれまでに1000人以上が利用している。ゲキサポとそうだんドットミーの2つの事業で、今期中に年間数億円の売り上げを見込み、拡大に向けて土台を固めているところだ。

 金井氏は現在29歳で、まさにターゲットと同じデジタルネイティブのゆとり世代だ。今の20代が漠然とした不安を抱える要因は「時代背景にあると感じる」と言う。

「終身雇用が崩壊し、転職や独立、パラレルワークが当たり前になりました。急に選択肢が増えたのはいいけれども正解が分からず、みんな途方に暮れているんです。しかもSNSによって周囲の人の行動や情報が見えすぎる。そのせいで、どんどん自己肯定感が下がってしまうんだと思います」(金井氏)

 SNSで同年代の活躍を見て「今まで何も積み重ねてこなかったかもしれない」「これから何か始めても遅いかもしれない」と焦り、自信を失う20代。果たして“相談”サービスは、自分の道に迷う若者を救い出せるのか。