Photo by Alexander Shatov on Unsplash
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  • TikTokコンテンツの情報量の増加
  • 正確なアルゴリズムで見る動画だから、“自分ゴト化”しやすい
  • meme(ミーム)が生む拡散性の高さ
  • Instagramとの違いは「潜在層」か「顕在層」か
  • TikTokマーケティングはまだまだブルーオーシャン

2021年に大きな話題を集めたキーワード──それが「TikTok売れ」だ。TikTok売れとは、TikTok上で流れてきたショートムービーがきっかけとなり、食料品や雑貨などのライトな商品を中心に商品が売れる現象を指す言葉。

今年だけでもZ世代を中心に地球儀のような見た目をした水色のグミ「地球グミ」ほか、リバイバルヒットした食物繊維飲料「ファイブミニ」、1995年に中央公論新社から文庫本が出版された小説「残像に口紅を」などの人気商品を数多く生み出した。

先日、月刊誌『日経トレンディ』が発表した、今年ヒットした30商品を紹介するランキング「2021年ヒット商品ベスト30」の1位には「TikTok売れ」が選ばれた。

TikTokはもはや単なる動画アプリを超えた巨大なコマースプラットフォームとなっていると言っても過言ではない。なぜ、TikTok売れが起きるのか。その背景にあるのは、SNSで起きているユーザーの行動変容にあると考えている。企業のSNSマーケティングを支援してきた知見をもとに、かつて「インスタ映え」が流行語にもなったInstagramとの違いを比較しながら、TikTok売れが起きる3つの理由を紹介する。

TikTokコンテンツの情報量の増加

まず第1の理由として挙げられるのが、TikTok内のコンテンツの多様化だ。TikTokと聞くと、主に女子高校生を中心としたダンスコンテンツがまだまだ主流と思っている人も多いかもしれない。しかし最近のTikTokは、もはや女子高生などの若者だけが集まるSNSではない。

2021年10月の博報堂による発表によれば、TikTokの国内ユーザーの平均年齢は34歳を超えており、平均年齢は年々上昇しているとのこと。それに伴い、コンテンツのトレンドにも変化が起きている。かつてはダンス動画などが主流だったが、今では日常生活の知恵になる実用的なハウツー動画や、動画で生活の日記をつける「Vlog」など、さまざまな種類のコンテンツが注目を集めている。

さらに動画にはYouTubeさながらの文字入りテロップが流れ、音声のナレーションが付くなど、編集方法も多様化している。

結果として、たった数十秒の動画に対する情報量が、格段に上がっていることになる。その上、動画はどれもちょっとしたスキマ時間に情報を取り入れられる数十秒の尺。現在のTikTokは、立派な「情報収集ツール」として用いられるようになっているのだ。

正確なアルゴリズムで見る動画だから、“自分ゴト化”しやすい

次に、TikTokの特徴のひとつでもある「動画アルゴリズムの正確性」によって、動画内に出てくる商品を"自分ゴト化”しやすい点が考えられる。

TikTokは、基本的には動画を“見させる”力が強いSNSだ。例えば、アプリを開いた瞬間に、自分の過去の閲覧履歴などをベースにTikTok側が勝手に選んできた、その人が“好きであろう”動画が全画面で流れるようになっている。そして、そこに流れる動画は、自分と同じような属性を持つユーザーのデータからなるアルゴリズムをもとに表示される。

そのため、表示された動画に興味を持つ確率が高くなる。ユーザーはアプリを開いた瞬間から、自分が好きな動画を永遠に見続けられるようになっているのだ。

特にZ世代にとっては、TikTokには比較的若く、自分と近しい年齢の一般人ユーザーが多い。属性が似たユーザーが集まった結果、動画のアルゴリズムはより強固に、正確に表示されるようになり、商品の購入検討の際はあたかも「自分の友達に商品やサービスを使った感想を聞く」ような感覚を持つことになるのだ。

そうしたプラットフォームでは、他のSNSで活躍する自分の世界とは遠いインフルエンサーや芸能人よりもさらに、コンテンツが“自分ゴト化”しやすくなる。彼ら彼女らが使っているものや愛用しているものを実際に自分が利用するシーンが、動画という媒体によってさらに想像しやすくなるからこそ、実際の購買へのアクションにもつながりやすいと推測する。

meme(ミーム)が生む拡散性の高さ

ユーザー同士が真似をしあって広めていくSNS上のトレンド「meme(ミーム)」は、新たなトレンドや消費活動を生み出すきっかけにもなる。TikTokはmemeが生まれやすいプラットフォームだと言える。それがTikTok売れにもつながっている。

その理由として、TikTokではInstagramには見られない、企画参加型コンテンツを提示していること、トレンドのタブ欄にハッシュタグを使ってユーザーがmemeに参加しやすい環境をつくっていることが挙げられる。memeに参加しているユーザーが増えれば増えるほどトレンド欄に上位表示されるため、memeが盛り上がる確率が高くなっているのだ。

先に述べた、地球グミやファイブミニなどは、まさにmemeが火付け役となって人気に火がついた商品で、memeを真似して動画をとったり、商品を購入したり、実際の行動を起こしたユーザーが増えたことが商品ヒットの背景にある。

@yuraneko_ #地球グミ #ロープキャンディ #ASMR ♬ オリジナル楽曲 - ゆら猫💚🐈‍⬛

Instagramとの違いは「潜在層」か「顕在層」か

TikTok同様に購買につながるSNSと言えば、Instagramが挙げられる。しかしInstagramとTikTokの場合、ユーザーの層が全く異なる点は押さえておきたい。

Instagramのブランドアカウントを閲覧するのは商品やサービスの「顕在層」であり、すでに商品の存在を知っているユーザーが目的を持って閲覧している。一方、TikTokのブランドアカウントを視聴するユーザーはまだ商品の存在自体を知らない「潜在層」が暇つぶしに見ているのだ。TikTokとInstagramでユーザーの層が異なるということは、当然ながらユーザーに刺さりやすいコンテンツも異なる。

例えば、筆者が運用支援をしている節約系のアカウントでは、TikTokでは若年層を中心に「あなたのiPhone本当に新品......?」といった、自分のiPhoneがどういった状態のものか確認したくなるような、ライトに見られるおもしろいコンテンツが刺さりやすい。

@mate.watashino.setsuyaku

お古でも愛してくれるよね?❤🥺️📱詳細はコメ欄へ#ライフハック #わたしの節約 #裏技 #iPhone

♬ オリジナル楽曲 - kim☁️

一方、Instagramの場合、もとより節約に関する情報を求めてアカウントをフォローしている主婦ユーザーが多く閲覧しているため、バズる内容も家事で役立つ実践的な調理アイテムなどが多い傾向にある。

TikTokは、SNSの中でも唯一楽曲がコンテンツの評価を決める点にも特徴がある。TikTokの楽曲トレンドの変化は目まぐるしく、どんなにバズっている楽曲でも1週間程度でそのブームが下火になることも多い。若年層の間でどんな楽曲がどのようなフォーマットで使用されているかを感度高く見極める必要性があるのだ。

さらにTikTokは他のSNSプラットフォームに比べ、フォロワー数に関係なくクリエイティブの質次第でバズることができる実力勝負なところがある。そのため、TikTokではやっている楽曲や型をいち早くキャッチした上でコンテンツ自体を面白く作り込むことができれば、アルゴリズムからの評価によって潜在層まで幅広くリーチすることが可能になる。

逆に言えば、少しでもTikTok上のブームが過ぎたコンテンツを発信すれば、高い確率で“滑ってしまう”シビアさがあるということだ。コンテンツのブームが2〜3ヶ月続くこともあるInstagramに比べ、TikTokはトレンドをより素早く正確につかむことが必要になってくるのだ。

TikTokマーケティングはまだまだブルーオーシャン

「TikTok売れ」が冒頭の日経トレンディの「2021年ヒット商品ベスト30」のヒットランキング1位になったとはいえ、日本におけるTikTokマーケティングはまだ発展途上であり、ブルーオーシャンとも言える。

海外の場合、ラグジュアリーブランドをはじめとする大手ブランドは2018年以降、着々とTikTokに参入している。プラダ(Prada)、ドルチェ&ガッバーナ(Dolce & Gabbana)などは昨年から参入し、初回投稿からTikTok上のクリエイターとコラボして確実に成功を収めるなど、戦略的に活用していることが伺える。

日本はTikTokにおけるビジネスの価値が今ようやく認識されはじめたばかり。プラットフォームにPR投稿自体がそもそも多くない。インフルエンサーマーケティングもInstagramほど発達しているとは言えない。

その分、ステマやサクラインフルエンサーなどの悪質なユーザーが少ないプラットフォームである。そのためTikTokユーザーはTikTokerに対する信頼性も高く、TikTokerは純粋にコンテンツの質だけで勝負している現状がある。そこで磨かれたコンテンツは今後も増えていき、広告の効果もこれから最大化されていくと推測する。

TikTokのような強力なアルゴリズムではたらくプラットフォームの場合、その上で「何度その商品やサービスを見かけたか?」といった商品との接触回数によって、商品の認知度や信頼性が決まってくることになるだろう。自分と同じ属性のコミュニティ内でmemeに乗って何度も見聞きしたモノが、実際に購買に至るケースが増えることが予想される。