
高齢者が抱える問題や、高齢化に伴い発生する社会課題をテクノロジーの活用によって解決することを意味する「AgeTech(エイジテック)」。特に日本は世界の中でも高齢化が進んでいるため、その課題をいち早く解決する日本発のAgeTech企業への期待が高まっている。
2019年創業のファミトラもこの領域に取り組むスタートアップの1社だ。同社が取り組むのは、“認知症による資産凍結”の対策として注目を集める「家族信託のDX」。従来はアナログな作業が多かった家族信託のプロセスにITを組み込み、より簡単にこの仕組みを使えるようなサービスを開発してきた。
2020年5月にサービスを立ち上げて以降は着実に利用者を増やしており、2021年度中にも顧客の信託財産総額が100億円に達する見込み。ファミトラでは今後のさらなる事業拡大に向けて、以下の投資家を引受先とした第三者割当増資と金融機関からの融資により総額約14億円の資金調達を実施した。
- Eight Roads Ventures Japan
- Coral Capital
- DG Daiwa Ventures
- Aflac Ventures LLC
- 東京海上日動火災保険
認知症になり当人の意思能力がないとみなされると、さまざまな契約ができなくなってしまう。たとえば定期預金の解約、当人名義の不動産や保有株式の売買などが制限され、場合によっては当人の銀行口座からの入出金を拒まれてしまうことさえもある。これが認知症による資産凍結の問題だ。
この問題に対して有効な対策になりうるのが「家族信託」という仕組みだ。認知症が発症する前に家族間で契約を交わしておくことで、発症後でも家族が柔軟に資産を管理できるようになる。

ファミトラではこの家族信託にまつわるプロセスを徹底的に効率化することに取り組んできた。
家族信託は守備範囲が広くさまざまなことができてしまうため、あらゆる視点を考慮した“100点満点の契約書”を作ろうと思うと膨大な時間がかかる。そこでファミトラでは対象を認知症対策に特化し、信託契約書作成の論点を絞りこむことで“型化”した。
それによって契約書の作成を半自動化し、作業の時間や手間を大幅に削減。論点の洗い出しや契約内容の説明にかかっていたコストも圧縮することで、利用料金自体を抑えた。
ユーザーとのやりとりそのものは家族信託コーディネーターの資格を持つファミトラの担当者が電話やLINEなどで行うが、裏側ではITの活用が進む。
担当者が家族構成や資産情報といったユーザーからヒアリングした情報を入力すると、その状況に合った見積書や信託契約書を半自動で生成する社内システムを整備。LINEの公式アカウントと併用できる独自の顧客対応システムも内製するなど、オペレーションの改善に力を入れてきた。
家族信託の組成にあたっては家族構成や家庭の事情などそれぞれのケースでいくつもの項目を検討する必要があるため、何度も専門家が家族会議に運び、コミュニケーションを重ねながら進めるのが一般的だったという。そのため資産規模によっては100万円を超える高額な費用がかかるケースもあり、利用するのは一部の富裕層などに限られてきた。
一方のファミトラは5万4780円(税込)からの初期費用と、3万2780円(税込)からの年間費用がサービスの基本料金(信託財産評価額が1億円未満の場合)。ここに弁護士による契約書作成費用などの実費が加わるかたちにはなるが、従来よりも価格を抑え、スムーズに使える設計にすることで「家族信託をコモディティ化」するのが狙いだ。
冒頭で触れたようにこの1年でも利用者を増やしており、顧客の信託財産総額は2020年12月と比較して7倍強に拡大。現在のペースで推移すると2021年度中には100億円に達する見込みだという。

ファミトラ共同創業者の三橋克仁氏(代表取締役CEO)や早川裕太氏(取締役CTO)によると、この1年で論点の整理と体系化がさらに進み、対応のスピードも上がってきたことがサービス成長の要因の1つだ。並行して銀行、保険、証券、介護、医療、不動産、葬儀、税理士などなどさまざまな事業者との連携も進めており、サービス間での相互送客のようなライトなものも含めると約200の事業者と取り組みを始めている。
連携の枠組みは相互送客のほか、提携先が既存商品と組み込あわせた“付帯サービス”としてファミトラのサービスを一緒に提供する、ファミトラが黒子になって家族信託サービスをOEM提供するといったパターンが多い。中には合弁会社の立ち上げの話もあるなど、アライアンスを軸に事業の領域を拡大していく計画だ。
このように事業が拡大する中で、今回の資金調達を経てファミトラでは「プロダクトカンパニーへの脱皮」を目指していくという。
「現時点では、まだ既存の家族信託コンサルの一部しか効率化できていないという感覚です。(今回の調達も含めて)知見や資金など業界を抜本的に変えていくための地盤がようやく整ってきました。最終的に目指しているのは『1クリックで最適な契約書ができる』ような世界観です。契約書の作成自体は弁護士に依頼する必要があるものの、セルフサーブ型の家族信託サービスとして、自分で必要な情報を入力していけば最適な条件がほぼほぼ完成するという体験を実現したいと考えています」(三橋氏)
家族信託自体のニーズに加えて、巨大な“休眠資産”とも言える信託財産にアプローチできれば、将来的にはそこから派生したビジネスへの拡張も見込める。今回の投資家からはそのポテンシャルも含めて評価され、資金調達につながったという。
直近では「スマート家族信託」を提供するトリニティ・テクノロジーが6.1億円を調達するなど、関連するプレーヤーも増え始めている。三橋氏も「急速に市場が広がってきていると感じている」と話していたが、家族信託のアップデートを筆頭に認知症にまつわる課題解決に取り組むAgeTech企業は今後さらに盛り上がっていきそうだ。