
「近年さまざまな領域でDXが進んできているが、電話は置き去りにされてしまっている」
そう話すのは“電話のDX”に取り組むIVRy(アイブリー)で代表取締役CEOを務める奥西亮賀氏だ。
携帯電話やスマートフォンなどハード面では著しい進化を遂げてきた一方で、「通話」という観点では同期的なコミュニケーションスタイルが今でも残り続けている。奥西氏はそんなレガシーな電話体験をアップデートし、スモールビジネス(SMB)を中心とした顧客企業の業務効率化を後押しすることを目指している。
月額数千円から使える、電話応答を自動化するサービス
IVRyが2020年11月より運営している同名のプロダクトは、月額数千円から使える電話自動応答(IVR)サービスだ。音声やSMSなどによる自動応答機能によって電話業務の一部を自動化することで、顧客の負担を減らす。

コールセンターなどに電話をかけると、「新規の申し込みに関する問い合わせは1を、現在契約している内容に関する問い合わせは2を...」といったような音声ガイダンスが流れることがある。IVRyは同様の体験をウェブ上から簡単に実現できるサービスだと言えば、イメージしやすいかもしれない。
同サービスにはAI音声案内、録音音声案内、電話転送、SMS自動送信など複数の機能が備わっており、ユーザーはウェブ上からこれらをカスタマイズしながら電話業務を設計していく。
たとえば営業電話に対しては受付フォームのURLをSMSで自動送信する、自社が対応していない業務への問い合わせ電話に対しては録音音声で案内するといった具合だ。通話録音機能もあるため、顧客の分析や伝言の引継ぎにも使える。

IVR自体は決して新しい概念ではないものの、従来はSIerが大手企業向けに開発しているものが多く、初期費用に加えて数十万円規模の月額利用料がかかることも珍しくなかった。奥西氏によると近年はクラウド型のサービスも登場しているが、それでもSMBにとってはコストの負担が大きく、そもそも選択肢に入ることがほとんどないという。
IVRyの場合は3300円の月額利用料に、550円の電話番号維持代や通話代が加算される仕組み。ミニマムで月額数千円から使えるため、コスト面のハードルが低い。加えて最短数分でサービスを使い始められる手軽さや、使いやすいサービス設計などが要因となり、正式リリースから約1年で800社以上(1カ月の無料トライアルユーザーも含む)に導入された。
代表的なユースケースの1つが、病院やクリニックだ。新型コロナウイルスのワクチンに関連する問い合わせの電話が殺到した結果、回線がパンクしてしまい、それ以外の患者の予約が受け付けられないといった悩みを抱える事業者が増えた。そういったシーンでは自動応答のニーズが強く、この業種だけですでに数百社の顧客を抱える。
そのほか飲食店や宿泊施設、食品メーカー、レンタルスペースなど顧客の幅は広く、20以上の業種で活用が進んでいるそうだ。
きっかけは「自身の違い経験」、病院やクリニックを中心に数百社で導入
奥西氏は前職のリクルート時代からプロダクトマネージャーとして複数の新規事業に携わってきた経歴の持ち主で、2019年3月に自身で会社を立ち上げた。
IVRyのアイデアのきっかけとなったのは、起業後の苦い経験だ。奥西氏自身の携帯を会社の代表電話にしていたところ、たくさんの営業電話がかかってきたため無視するようになった。するとそれが原因で融資の確認電話も見逃してしまい、審査に落ちてしまったのだ。
「10%くらいの割合で大事な電話があっても、残りの90%の重要ではない電話によってクリティカルなダメージを受けてしまうこともあります。世の中に同じような課題を抱えている人もいるのであれば、その状況を変えていきたいと思って(IVRyを)始めました」(奥西氏)
試しに簡単なランディングページを作り、数万円分だけウェブ広告を出稿してみたところ、すぐに10件ほどの問い合わせが来た。実際に話を聞いてみると課題も深く、すぐにでも使ってみたいと言われたそうだ。
「過去に十数個の新規事業を見てきたけれど、明らかに顧客へのハマり具合と初速が違った」と奥西氏は当時を振り返る。2020年7月ごろからサービスの企画を始め、同年11月に正式ローンチ。2021年5月からは病院やクリニックでの利用が本格的に増え、導入社数の伸びも加速した。
IVRyでは今後のさらなる成長に向け、組織体制の強化やプロダクトの機能拡充などに力を入れていく計画。そのための資金としてフェムトパートナーズとプレイドを引受先とする第三者割当増資により、約3億円を調達した。
奥西氏によると人員が限られている中小規模の企業は電話対応の課題を抱えているところも多いが、今までは「人力で頑張って対応する」くらいしか解決策がなかった。IVRyとしては電話DXの実現によって電話の在り方を変えていくことで、そのような企業の業務効率化を支えていきたいという。