
- 勢いのある「ABEMA」の アニメチャンネルの存在
- IPの獲得力とマーケティング力が最大の強み
- フィギュア化の判断は「フィギュアとして受け入れられるキャラクターかどうか」
鬼滅の刃や東京リベンジャーズ、呪術廻戦──社会現象化するほどの人気を見せる大ヒットアニメが立て続けに生まれていることに加え、ここ1〜2年で在宅時間の増加に伴い“巣ごもり消費”が加速。これらを背景に盛り上がりを見せているのが、フィギュア市場だ。
矢野経済研究所が発表した調査によれば、いわゆる「オタク」市場の主要分野のひとつであるフィギュア市場の2020年度の国内出荷金額は前年度比4.8%増の327億円となっている。
拡大を続けるフィギュア市場にサイバーエージェントグループが参入した。CyberZの100%子会社であるeStreamは2020年、世界に誇れるプロダクト(フィギュア)を生み出すことを目指した高級フィギュアブランド「SHIBUYA SCRAMBLE FIGURE」を立ち上げた。

これまでにアニメ『呪術廻戦』の人気キャラ・五條悟の7分の1スケールフィギュア(価格は税込1万9600円)、アニメ『Re:ゼロから始める異世界生活』の人気キャラ・エミリア(Neon City Ver)の7分の1スケールフィギュア(価格は税込4万3450円)など人気IPのフィギュアを展開している。
同ブランドについて、eStream代表取締役社長の高井里菜氏はこう語る。
「『SHIBUYA SCRAMBLE FIGURE』は美術品としても受け入れられるフィギュアを日本から発信したい、という思いで立ち上げたブランドです。IPの魅力を最大化させるフィギュア開発を強みとしており、品質には強くこだわっています。そのため、一般的なスケールフィギュアは1〜2万円ほどの価格帯となっていますが、SHIBUYA SCRAMBLE FIGUREは3〜4万円ほどの価格帯でスケールフィギュアを販売しています」(高井氏)
eStreamの売上高は実数は非公開ながら、2021年度の売上高は前年度から400%を超える規模にまで成長しているという。国内だけでなく中国・台湾・アメリカを基軸にプロモーションを展開し、2021年6月には中国支社を設立。
淘宝(タオバオ)およびWeChat内に直営店をオープンしたほか、イベント出展などを通じて中国国内の販促も強化している。2020年に36億元(約619億円)に達し、2023年には248%成長の91億元(約1541億円)への成長が見込まれている中国のフィギュア市場への展開も強めている。
eStreamの設立は2017年8月。もともとはCyberZが運営するeスポーツ事業のマネタイズ支援を目的に設立された会社だ。当初はeスポーツプレーヤーやゲーム配信者などのマネジメントやグッズ制作を手がけていたが、2020年から事業領域を拡張し、フィギュアブランドを展開している。
なぜ、サイバーエージェントグループの企業が最後発ながらフィギュア事業に参入したのか。その狙いについて、eStream代表取締役社長の高井里菜氏に聞いた。
勢いのある「ABEMA」の アニメチャンネルの存在
もともと、eスポーツプレーヤーやゲーム配信者などのマネジメントを手がけていたeStreamが、フィギュアブランドを立ち上げることにした理由──その意思決定の裏には、サイバーエージェントが“新しい未来のテレビ”として注力する「ABEMA」の存在がある。
現在、ABEMAのビジネスモデルは広告と有料会員(ABEMAプレミアム)が中心となっているが、最近は放送外収益を伸ばすべく、それぞれのチャンネルでマネタイズにつながる新たな事業の立ち上げに力を注いでいる。例えば、競輪・オートレースの投票サービス「WINTICKET」がそうだ。
「ABEMAにはさまざまなジャンルのチャンネルがあり、言うなれば“商店街”のようなものです。たくさんの人が集まる商店街で放送以外の価値を提供するために、ATD(ABEMA Tactical Division)と銘打って、新たな事業の立ち上げに取り組んでいます。SHIBUYA SCRAMBLE FIGUREが立ち上がったのも、その流れからでした」(高井氏)
ABEMAのアニメチャンネルには多くの視聴者が訪れており、その視聴者に向けてどんな新しい価値が提供できるか。最終的に行き着いた答えがABEMAのアニメチャンネルで放送しているアニメを軸にしたグッズの販売だった。
まずはコンビニくじのオンライン版とも言える、オンラインくじサービス「eチャンス!」を展開した後、フィギュアブランドの立ち上げに至った。
「1年ほどグッズ販売の事業を展開していたのですが、その過程で、業界の慣習では『スニーカーとフィギュアだけは新規参入者は作れない』と言われていたので、最初はフィギュアブランドを作ろうとも思っていませんでした。ただ、フィギュア業界は歴史があり、さまざまなメーカーが存在する一方、商品の売り方は特定の場所に行かなければ買えないなど、アナログ中心の設計で今の時代にマッチしていない部分もあると思ったんです」(高井氏)
IPの獲得力とマーケティング力が最大の強み
国内におけるアニメIPのフィギュア業界ではBANDAI SPIRITSやグッドスマイルカンパニーなどのメーカーが知られており、SHIBUYA SCRAMBLE FIGUREは最後発で参入したかたちとなる。当初は「本当にフィギュアが作れるのか?」といった声が多く寄せられていたと高井氏は振り返るが、それを打破するきっかけとなったのが、IPの獲得力とマーケティング力だ。
「ABEMAはアニメチャンネルを運営していることから、人気アニメのIPを獲得できるネットワークがあり、ABEMA上では放送連動型広告ができます。また、eStream親会社のCyberZはスマホ広告の運用などに強みを持っている会社です」
「両方の強みであるデジタルを活用し今までの売り方にとらわれないかたちでフィギュアを売ることができ、業界の常識を変えていけると思いました。高クオリティ・高価格帯であるため、ファンの皆さんにしっかりと実物を見ていただきたく展示企画も行う一方で、SNSや動画などで拡散させていく施策にも力を入れています」(高井氏)
まずはABEMAが培ったネットワークをもとに、アニメ『Re:ゼロから始める異世界生活』のキャラクターのIPを獲得。その後、さまざまな工場に足を運び、eStreamの考えに賛同してくれるパートナーを見つけることができ、フィギュアの制作が始まった。
『Re:ゼロから始める異世界生活』のキャラクターのフィギュアから始まり、『呪術廻戦』など人気アニメのキャラクターのフィギュアなども制作。着実に実績を増やしていったことで、今や「SHIBUYA SCRAMBLE FIGUREにフィギュアを制作してほしい」といった形で版権元から逆オファーが届くようになっているという。
フィギュア化の判断は「フィギュアとして受け入れられるキャラクターかどうか」
現在、SHIBUYA SCRAMBLE FIGUREは完全受注生産でフィギュアを販売している。実数は明かせないとのことだが、「ひとつのフィギュアに対して、多くの人の想像を上回るような注文数が入るようになっている」と高井氏は語る。
「ABEMAの視聴データをもとにアニメの人気度もチェックしますが、それ以上に大事なのはフィギュアとして受け入れられるキャラクターかどうかです。実はコミカルな面白いキャラクターのフィギュアは売れないことも多いんです。そうしたマーケットリサーチは絶えずやっており、独自の判断基準をもとにフィギュア化の判断をしています」(高井氏)

SHIBUYA SCRAMBLE FIGUREのフィギュア制作を取り仕切るディレクターは5人おり、そのディレクターを中心に毎月3〜4点の新作フィギュアの予約販売を行っている。2021年は人気IPのスケールフィギュアを計19体販売した。
「グローバルではデフォルメフィギュアで1000億円を売り上げているメーカーも出てきています。日本はコンテンツ、IPが溢れているので、それを造形化するノウハウさえあれば1000億円以上の規模を目指せるはずです。日本が世界に誇るIPをどんどん造形化していき、グローバルで人気のフィギュアブランドにしていければと思います」(高井氏)