• Tybourne Capital Management マネージングディレクター/日本株投資責任者 持田昌幸
  • ジャフコ グループ パートナー 藤井淳史
  • シニフィアン 共同代表 朝倉祐介

2020年に引き続き、新型コロナの影響を大きく受けた2021年。人々の生活様式はさらに変化し、その影響は大企業からスタートアップまでを巻き込んでいる。果たして2022年はどんな年になるのか。

DIAMOND SIGNAL編集部では昨年と同様に、ベンチャーキャピタリストやエンジェル投資家向けにアンケートを実施。彼らの視点で2021年のふり返り、そして2022年の展望と注目の投資先について語ってもらった。第5回はTybourne Capital Management マネージングディレクター/日本株投資責任者 持田昌幸氏、ジャフコ グループ パートナー 藤井淳史氏、シニフィアン 共同代表 朝倉祐介氏の回答を紹介する。

Tybourne Capital Management マネージングディレクター/日本株投資責任者 持田昌幸

2021年のスタートアップシーン・投資環境について

2021年も引き続き、スタートアップへの資金流入はグローバルで続き、日本においてもスタートアップの資金調達額が過去最高になる見通しです。これにはさまざまな要因が考えられますが、日本のスタートアップのエコシステムが確実に成長し、海外を含めた投資家もこれらを確実に評価した結果だと言えます。

一方、投資環境という観点では、私たちのようなクロスオーバー投資家としては、未上場市場だけでなく、上場市場の動向を見ることも重要です。特にスタートアップの多くがIPO先として利用するマザーズ市場は2021年初以来マイナス16%(12月24日現在)とパフォーマンスは良くありません。また2021年に上場した企業の中には、株価が公募価格を下回って推移するケースも散見されるようになってきました。上場市場の株価が常に企業の本質的価値を示しているわけではありませんが、これらは、少なくとも一時的に上場市場と未上場市場に温度差があることを示しています。

2021年、私が日本株投資責任者として注目していたフィンテックやSaaS分野は、2020年に引き続き大きく盛り上がったと感じています。特に、私たちも株主として携わっていたPaidyのPayPalへの売却は、日本のスタートアップに新たなExitのオプションを提示しただけでなく、グローバルプレーヤーが日本のスタートアップ企業の買収に興味があることを示したという点でも非常に意義深かったと感じています。

今後、IPO時にM&Aの売却プロセスを走らせ、上場と売却、どちらのオプションが高い企業価値を提示するのかを見るデュアルトラックプロセスが増えるでしょう。これは、ストラテジックアセットであればあるほど重要度を増し、株主価値最大化を果たす上でもなくてはならないプロセスであると考えます。

また、2021年は日本でもこれまでより多種多様な手段で資金調達が行われた年だったと感じます。スタートアップ企業の調達方法の多様化は、企業に経営の柔軟性を与え、マーケットの活性化を促します。スタートアップがデットで調達できる額は着実に増えています。今後スタートアップのCFOはエクイティの調達だけでなく、銀行、クレジット投資家のハンドリングが必要なスキルになっていくでしょう。

日本でのコーナーストーン投資が実質的に可能になった点は、スタートアップがIPO後の株主構成により直接的に関われるようになったという点で非常に意義深く、これを利用するスタートアップのIPOは今後より一層増えていくと考えます。私どもも、2021年にはセーフィーのコーナーストーン投資家として、IPOに参加させていただきました。今後も積極的にコーナーストーン投資にも参加していきたいと考えているので、そういったオプションを検討されているスタートアップ企業の方々がいらしたら是非ご連絡いただきたい。

2022年の投資環境の変化や注目領域・プロダクトについて

2022年がどのようなマーケットになるかを予測することは難しいですが、日本のスタートアップのエコシステムは引き続き大きな成長を見せると考えています。より多くの資金を調達する準備のある会社が増え、より多くの資金が市場に集まり、より多くの優秀な人材がスタートアップに集まるエコシステムの拡大が今後も続いていくでしょう。

一方、上述のような上場市場環境を考えると、未上場市場においても、選別が大きく進む可能性があります。良い会社、つまり、それぞれの業界や分野におけるナンバーワンの会社は、比較的高条件、高バリュエーションで資金調達を続けられる一方、それ以外の会社にとっては調達環境が悪化する可能性があるでしょう。

また、このような上場マーケットの状況の中、今年前半に投資意欲が旺盛だった海外機関投資家のうち、どの程度の投資家が引き続き日本のスタートアップにコミットし続けられるかどうかも興味深く見ています。

日本と世界のDX化の浸透率の差などを鑑みると、2022年も引き続きFinTechやSaaS分野の業界は大きく盛り上がるものと予想しているし、調達額のサイズも大きくなっていくでしょう。また今後、スタートアップ起業のスケールアップを考えたときに、大・中企業での経営経験のある人物を加え、組織を整備できるかという点は1つ重要な点になると考えています。優秀な若手の方々が既存の産業からスタートアップ業界に流入しており、非常でポジティブである一方、既存の産業でマネジメントとして活躍されている方々のスタートアップへの流入はまだ限定的です。カルチャーフィットなど、参入への障壁が高いことも事実ですが、他社で経営をされているという経験は、多くの場合スタートアップのスケールアップに大きく役立つと考えています。

タイボーンとしても、2022年以降どのようなマーケット環境になったとしても、クロスオーバー投資家として積極的に日本のスタートアップ企業に投資を続けていきたいと考えています。

2022年の投資環境の変化や注目領域・プロダクトについて

上場投資ファンドも運営している観点から、個別企業についてのコメントは差し控えさせていただきますが、私たちが常に興味関心を持っているのは、以下のような企業です。

  • 社会の構造的な変化に対して正しいポジションを取っている企業
  • 潜在的な市場規模(TAM)が大きい市場を対象としている企業
  • 競合優位性が高く、プライシングパワーがある企業
  • 視座の高い経営陣が運営している企業

ジャフコ グループ パートナー 藤井淳史

2021年のスタートアップシーン・投資環境について

2021年は年初から新型コロナの影響を強く受ける一方、新しい日常の模索から定着へと進んだ1年だったと思います。企業のDX化もまた、緊急避難的なデジタルツールの利用から定着・拡大へと進みました。スタートアップへの投資においても、SaaS等のtoB(企業向け)ソリューションを提供する会社への資金流入が引き続き活発でした。これまでIT化・クラウド化が進んでいなかった領域への浸透がさらに進み、社会全体へのソフトウェアの浸透度が高まった年になったと感じています。具体的には、「一般個人の体験が企業に還元される流れ」、「大企業や非IT業種へのクラウド化の広がり」が明確になりました。

一般個人の体験が企業に還元される流れ

研究用→業務用→民生用という順に広がる最先端の「技術」とは逆に、民生用で得た「体験」が業務用に適用されていく流れが広がったと感じます。2021年以前からのことですが、チャットツールの業務利用が進みはじめています。これは、それ(業務利用)以前の、個人によるLINEの利用体験が後押ししていると思います。

LINEが出現していなかったら、導入検討時に「Eメールと何が違うの?」と問う上司の説得にも苦労したかもしれません。それが今では「(業務用の)LINEみたいなものです」のひと言で説明が済みます。民生用で作られた体験が業務用に転用される流れは今後も進むと感じています。スマートフォンの登場により、プライベートではパソコンを使わなくなったという人は増えたと思います。AIを活用したOCRや自動議事録作成、ノーコードサービスの広がりは、パソコンのキーボードを叩く機会を減らし、スマホやタブレット端末だけで完結する業務も増えてくるのかもしれません。

大企業や非IT業種へのクラウド化の広がり

大企業においては、コロナ禍やそれにともなう在宅ワークが間違いなくクラウド利用の後押しになりました。この結果、自社内の特定業務に閉じていたクラウドサービスが、社外へ繋がりを持つサービスに進化・拡大したと思います。例えば、リモート商談や電子契約など、「相手方も使えるから」こそのサービスです。

ささいなことですが、2021年は、投資契約も電子で締結するケースが増えました。これまでは「法務局に提出する書類は電子サインではダメ」という認識でしたが、これが「電子サインでもOK」となったことから、電子サインで契約を締結するケースが増えました。クラウドの繋がりを途切れさせていた企業や公的機関がクラウド化する(またはクラウド対応を認める)こと、そしてチェーンが繋がることで、より価値が発揮されてくると思います。

民生用のITサービスが先行し、その体験が社会全体で広がりインフラのようなものになっているものと思います。そこにコロナ禍による後押しが加わったことで企業のDXが一気に進んだのではないかと思います。そのため、toBのサービスでも、投資先探しやユーザー獲得、UI/UX、継続利用の施策まで、toC(個人向け)のサービスを参考にしています。

2022年の投資環境の変化や注目領域・プロダクトについて

2022年は、①クラウド・DX化が業務の効率化から新しい価値の創出につながるサービス、②脱炭素が生み出す新しい経済性に注目しています。

①のクラウド・DX化が生み出す新しい価値は、情報の集約・分析による価値の採掘と繋がる・広がることによる価値の創出にあると思います。

情報の集約・分析による価値の採掘は、例えば全社員の保有する名刺をクラウドに上げている会社も多いと思いますが、それによる価値創出は体感の通りかと思います。報告書、契約書、請求書、各種伝票などなど、今まで紙や自社システム内に保管されていたものをクラウドに上げることで価値が創出されるソリューションは、すでに普及段階にあると思います。

そのような収集・分析により価値発揮されるサービスもまだまだ広がると思いますが、そこからさらに他社や他業務等に繋がることによる価値が創出されてくると思います。規制緩和が前提ですが、例えば給料のデジタル払いも「繋がる」ことによる価値を期待できます。これまで給与は現金又は銀行振込に限定されていたため、個人がFinTechサービスを利用する場合、企業から受け取る給与である「現物」を「デジタル」に変換・移し替える必要がありました。個人家計におけるお金の流れは、源泉部分がデジタルから独立していたと言えます。チェーン全体がDX化されるとその利便性は格段に上がり、新しい価値を生み出せると思います。

また、企業において古くからある商流内の在庫最適化の仕組みとして、SCM(サプライチェーン・マネジメント)という概念があります。世の中の生産者や流通業者のCMのDX化が進めば、自社商流内に閉じた効率化ではなく、外に開いた世の中全体の効率化を実現できます。工数や在庫が余剰になった場合や、足りなくなった際に既存取引先以外の企業を含めて瞬時に調整が図れるような世界観です。

単なる在庫・工数余剰の消化という以上に、新規取引先も開拓できるプラットフォームのような存在を作れると思います。SaaSは月額固定費の料金が多いですが、新しい価値を創造する場合、その成果に応じた成果報酬・トランザクション課金を行うようなサービスも増えてくると思います。

②の脱炭素が生み出す新しい経済性とは、これまでの経済活動に、炭素排出の費用(課税等)、炭素削減分に利益(排出権等)が加わることです。これまでの収益・費用の経済性のモノサシに変化が生じます。例えばコスト高を理由に避けられていた技術や製品が、炭素価値を含めると採算に乗ることになります。SDGsの流れも同様に「モノサシの変化」を起こしていると思います。

変化自体がベンチャーの商機ではありますが、特に2点の理由から注目しています。1点目がベンチャーへの流入資金の拡大です。大量の炭素を生み出すアセットを伴う産業は、本来、事業化への投資額が大きくベンチャーが手を出しづらいと言われてきました。近年の調達資金の大型化はこれを可能にします。

2点目はやはりDX文脈です。2000年代後半に京都議定書に関する排出権取引が盛んになった時と比べて、生産者から消費者に至るまでセンシングやデータ取得が容易になっています。より細かな脱炭素活動による削減量を把握したり、取引したりできるようになればおもしろいと考えています。

2022年に注目すべき投資先

期待する投資先はたくさんあります。全ての投資先に注目&期待をしていますが、今回前述した文脈に沿いますと「紙・独立データをクラウドに繋ぐ」流れでは、契約書の自動レビューやクラウド管理を行うLegalForce、「繋がる・広がる・新しい価値を生む」という文脈では、デジタルバンクを目指すKyash、社会全体の廃棄ロス削減に取り組むレット等が新しい潮流をより享受できると考えています。

シニフィアン 共同代表 朝倉祐介

2021年のスタートアップシーン・投資環境について

2020年に続き、レイターステージを対象にして大規模な資金を提供する海外投資家が増加したこと、それに伴い、調達額の大きなディールが続出し、スタートアップ全体の資金調達額が増加したことを実感した1年でした。

2021年はスマートニュースやSpiberのように、250億円規模の資金調達を実現するスタートアップが現れました。こうしたビッグディールをけん引しているのが海外投資家です。巨額のファンドをもとに、「最低投資額5000万ドル」を掲げる海外投資家も珍しくありません。

2020年末の記事でも非伝統的ベンチャー投資家の出現について言及していますが、2021年はそうした動きがさらに加速・定着した1年であったと言えるでしょう。背景として、日本だけでなく世界中で主に上場株投資家によるベンチャー投資が進行していることが挙げられます。また有望なベンチャー投資先であった中国のポリティカルリスクが顕在化したことで、一部の資金が日本市場に流入していることも一因でしょう。

日本にはマザーズという世界で最も上場しやすい株式市場が存在しており、長らくマザーズがレイターステージの役割を果たしてきました。その一方、未上場段階で大きな成長資金を提供できる出し手は限られていました。そのため多くのスタートアップは時価総額が数百億円前半程度の段階での上場を選択せざるを得ず、個人投資家主体の株主構成など、IPO後の継続成長を実現するうえでの課題に直面してきました。

こうした課題を「第二の死の谷」と私は呼んでいますが、その克服のためにもレイターステージという市場の開拓こそが必要だと考え、2017年のシニフィアン設立以降、グロースキャピタル「THE FUND」の運営などに取り組んできました。

ここ1、2年、海外投資家に留まらず、新たなグロースキャピタルの参入や既存VCの規模拡大などが進みました。2021年秋にはソフトバンク・ビジョン・ファンドの国内参入も報じられました。昨年の記事でも触れたように、マザーズ上場後の資金調達機会が普及してきたことも相まって、いよいよ「第二の死の谷」問題は解消されつつあると考えています。

加えて、2021年はPayPalによるPaidyの3000億円での買収も大きな話題になりました。マイノリティー出資、バイアウトを問わず、海外プレーヤーにとって日本のスタートアップが魅力的な投資対象となったことが伺える象徴的な出来事でした。こうした海外勢の参入に対し、日本の投資家や企業は外資に機会を奪われていると批判する声も目にするようになりました。この手の主張を私は「スタートアップ攘夷論」と呼んでいますが、資金供給者の視点に偏った見解ではないかと思わないでもありません。何より肝心なのは、「スタートアップの成長が実現できるかどうか」という点であり、リスクマネーの提供やイグジットの機会が増えてきたことは歓迎すべきだと捉えています。

一方で資金の需要者であるスタートアップ側でも今後、調達する海外マネーの選別が進むことでしょう。「海外投資家」と言っても、VC、機関投資家、ヘッジファンド、ファミリーオフィスなど、アセットクラスや“格”も異なる全ての投資家をひっくるめた幅広い概念であって、特色は十人十色であるからです。最近の海外投資家信仰にはある種の流行的な雰囲気を感じさせるものがありますが、事例が重なることで理解も深まり、国内外を問わず、より「お金の色」を意識した取捨選択が増えることでしょう。

また2021年末からのグロース株急落を受けて、日本のスタートアップへの投資に及び腰になる海外投資家も見られます。この点、国内プレーヤーで大規模調達の受け皿となれるかどうかも、日本のスタートアップ・エコシステムにとっては重要な論点と考えています。

2022年の投資環境の変化や注目領域・プロダクトについて

起業家が10年以上先の未来を見据えて事業構築を図っている中、1年単位のトレンド予測にあまり意味があるとは思えません。

そのうえで、中長期の重要テーマになり、なおかつ2022年中にも新たな動きが出るであろう分野として、現代を生きる人類にとって最重要な課題である脱炭素、そしてスマホ以来久々の“The Next Big Thing”を感じさせるWeb3に注目しています。マズローの欲求5段階説のピラミッドで言えば最底辺と頂点に位置するような対極の領域ですが、どちらもスタートアップだからこそアプローチし得る課題と捉えています。

この点、両分野共に規制当局との対話が求められますが、特にWeb3に関しては税制面がネックとなり、起業家の海外流出が進みかねないことは懸念しています。

また短期では、現時点における国内スタートアップシーンのけん引役であるSaaS系スタートアップを中心に、上場・未上場の垣根を超えてエンタープライズ向けスタートアップの再編が進み、新たな勢力図が3年程度のスパンで固まると見ています。

一般論として数多くのスタートアップが台頭しているSaaSやHRの領域は、日本特有の商慣習・雇用慣行が海外企業に対する参入障壁として機能しています。その反面、こうした領域のプレーヤーは国内市場に最適化することが競争戦略上の合理的な判断であるため、プロダクトをそのまま他の地域で提供するのが難しく、海外展開では制約を受けてしまいがちです。

一時に比べると上場SaaS各社のセールス・マルチプルも落ち着きつつありますが、海外SaaS企業が多地域展開の想定のもとに評価されるのに対し、海外進出が困難な国内のエンタープライズ向けPost-IPOスタートアップが現状の評価を正当化するためには国内での成長維持が欠かせません。この点、既存プロダクトのみではどうしても市場サイズに限界があるため、事業の複線化が上場各社にとっての主要課題となります。

実際、先行するPost-IPOスタートアップにおいて、オーガニックに新事業を構築する事例が見られますが、既存領域とは異なる魅力的な「飛び地」での新規事業創出を企図する結果、従来はまったく異なる事業カテゴリーだった会社同士が突如として競合になるといった事態も生じています。今後もスタートアップを取り巻くフレネミー状況はますます複雑化することでしょう。早晩、SaaS、HR、FinTech、AIといった事業カテゴリーの垣根を超えて、エンタープライズ向けスタートアップはホリゾンタルやバーティカルに関わらず、すべからく競合、連携、合従連衡の関係に至り、市場全体の再編が進むはずです。

こうした流れの行き着く先として、国内スタートアップの大買収時代が到来することを、希望も込めつつ私は妄想しています。周知の通り、米国スタートアップのイグジットの9割がM&Aによるのに対し、日本のイグジットはマザーズ上場一本足といったきらいがあります。スタートアップのM&A事例が増加すれば、より現実的なイグジットを視野に入れた起業家の参入、並びにイグジット経験を得たシリアル・アントレプレナーの増加を促すことができ、日本のスタートアップ・エコシステムがより強固なものになることでしょう。

米国の場合、スタートアップを買収するプレーヤーの多くはスタートアップ出自の上場企業ですが、日本において急速にPost-IPOスタートアップが増えてきていることを思うと、国内スタートアップのM&A増加は十分に可能性があるのではないかと楽観的に見ています。

現実に目を向けると、2021年にはチェンジ、freee、マネーフォワード、ギフティといったPost-IPOスタートアップが機動的なM&Aによる成長を狙い、100億円規模の資金を調達しています。ABB(Accelerated Book Building、短期間でブックビルディングを実施し、募集条件を決定する手法)による海外公募増資の普及を踏まえると、2022年もPost-IPOスタートアップによるM&A待機資金の獲得が進むことでしょう。

また、中には高い株価を活用し、株式交換での買収を狙う高成長Post-IPOスタートアップも出現することでしょう。このように、SaaS領域を中心にして上場/未上場をまたいだスタートアップの合従連衡が進む流れのことを、私は「SaaS最終戦争論」と呼んでいます。

思い返すと、こうした合従連衡による成長は、20年弱前のライブドアが企図していたことでもあります。スタートアップに留まらず、伝統的なメディア大企業をも対象にした成長戦略がどのような帰結を迎えたのかは周知のとおりですが、ひょっとしたら2020年代の今であれば、もう少し違った展開も期待できるのかもしれません。

先にスタートアップの市場再編が進むと述べましたが、こうした動きがスタートアップのみにとどまらず、日本産業界の大再編にまで発展することを、私は期待しています。