
年始からの米国テック企業の株価暴落を契機に、「スタートアップの冬の時代」という言葉もおどった2022年。米国の動きはそのまま日本市場のテック銘柄の低迷にもつながった。またロシアのウクライナ侵攻をはじめとした地政学リスクなども含めて、激動の1年だったといっても過言ではない。2023年、日本のスタートアップエコシステムはどう変化するのか。
DIAMOND SIGNAL編集部では、ベンチャーキャピタリストやエンジェル投資家向けにアンケートを実施。2022年のふり返り、そして2023年の展望や注目スタートアップなどについて聞いた。今回はANRI ジェネラルパートナーの鮫島昌弘氏の回答を紹介する。なおその他の投資家の回答については連載「STARTUP TREND 2023」に掲載している。
ANRI ジェネラルパートナー 鮫島昌弘
2022年のスタートアップシーン・投資環境について教えてください。
以前からコンタクトを取っていた海外の機関投資家が、これまでは割安な日本のSaaSスタートアップに注目していたものの、興味・関心が研究開発型スタートアップにシフトしたのが印象的でした。
一方で、日本で上場している研究開発型スタートアップの状況(時価総額など)がよろしくなく、残念ながら海外機関投資家との話がストップしてしまったケースがありました。今後は、たとえ時間がかかってもグローバルで勝負できる骨太な研究開発型スタートアップを創出しなければならないと改めて強く思った次第です。
2022年に注目した・盛り上がったと感じる領域、テーマ、テクノロジー、プロダクトなどを教えてください。
・半導体
緊迫する米中関係の影響で半導体への注目が一気に集まったと思います。特にオランダのASMLは先端半導体に必要なEUV露光装置を製造しており、昔はニッチと思われていたものの今ではトヨタ自動車に匹敵する時価総額(編集部注:12月21日時点で約2241億ドル。1ドル132円換算で約29.6兆円)にまで成長してきています。サプライチェーンの中で、チョークポイント(その1点を押さえることで全体を制圧できる重要なポイント)を押さえることの重要性を示す良い例だと思います。
・レーザー核融合
米国エネルギー省から、レーザー核融合の点火に成功して投入エネルギーよりも約1.5倍のエネルギー出力を得たとのニュースが発表され、大きな話題になりました。これからさらに長く地道な研究の積み重ねによって人類が太陽を手に入れられる日を待ちたいと思います。Financial Timesの記事にあった「from science fiction to “when, not if”」というタイトルが今回のブレイクスルーをよく表現しています。
・高温ガス炉
小型高温ガス炉を開発する米X-energyがDe-SPAC(SPACによる買収)により時価総額2600億円で上場するとのニュースが出ました。原子力関係ではNuScale Powerに次いで2社目のDe-SPACです。日本でも新型原子炉に関する議論が活発になっており、これからスタートアップ参入が期待されます。
2023年のスタートアップシーンや投資環境はどのように変化すると予想しますか。
・ベンチャーデットの拡大
VCからの投資環境が悪化する状況下でエクイティと従前のデットの間のベンチャーデットが日本でも増加すると思います。
・スタートアップ間のM&A
スタートアップ間の優勝劣敗が明確になり、資金調達力での顕著な差が現れ、M&Aが活発になると思います。
・ユニコーンの化けの皮が剥がれる
象徴的だった研究開発型スタートアップの大幅なダウンラウンドもしくは清算が出てくると思います。
2023年に注目する・盛り上がると考える領域、テーマ、テクノロジー、プロダクトなどを教えてください。
・Climate Tech
これまでは脱炭素に注目が集まっていましたが、国連気候変動枠組条約締約国会議(COP)でも議論されたように海洋や森林などを含めた生物多様性をどう保全するかのテクノロジーも必要になると思います。また、今後は気候変動を防ぐテクノロジーのみならず気候変動後の世界に備えた適応(アダプション)のテクノロジーにも注目です。
・Defense Tech
米国ではa16zがAmerican Dynamismを立ち上げると宣言していますが、今後日本でもサイバーセキュリティなどのDefense Techの必要性が議論されてくると考えています。すでに米国では元Oculus創業者のパルマー・ラッキーが防衛向けに自律ドローンやセンサーを開発するAndurilを創業しており、シリーズEラウンドで約2000億円を調達しています。
2023年に注目すべきスタートアップについて教えてください。投資先の場合は、その点を明示してください。
・特定用途向け半導体設計ベンチャーのSmartLogic(中国の企業、累計100億円以上を調達)や半導体材料ESWIN(こちらも中国の企業、累計2000億円以上を調達)。中国では半導体ベンチャーが勃興する中、状況を注視しながら日本の半導体ベンチャーの勝ち筋を見定めたいです。
・Ex-Fusion(投資先)
日本で唯一のレーザー核融合開発を行うスタートアップです。豪州のプロジェクトへの参画を発表しましたが、レーザー核融合が世界的に注目される中、来年はさらに大きな発表が期待されます。
・QunaSys(投資先)
日本で唯一無二の研究開発力を誇る、量子コンピューターのソフトウェア企業。これから海外展開を加速させ、世界でも勝負できることを証明してくれると信じています。