Photo:jayk7/Getty Images
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2021年の上半期は長引く緊急事態宣言・まん延防止等重点措置に伴い、我々は自粛生活を余儀なくされた。しかし、ワクチン接種が進むにつれ、コロナの感染状況は落ち着きを見せ始め、9月末には緊急事態宣言とまん延防止等重点措置が全面的に解除された。

少しずつコロナ前のような生活に戻りつつあり、2022年は本格的に“コロナ後の生き方”について考える年になるだろう。起業家たちはこの1年をどう振り返り、そして2022年はどのような年になると考えているのか。

DIAMOND SIGNAL編集部は過去に取り上げたことのある起業家たちにアンケートを実施。その結果を前後編にわけて紹介する。掲載は五十音順。(後編の記事はこちら)。

青木穣氏 / パラレル共同代表

  • 2021年の振り返り

(コロナ禍による)自粛期間が1年を超え、なかなか終わりが見えない中、人とのつながりは求めるけどZoom飲みには飽きてしまった人々が、一気に音声SNSのClubhouseやオンラインゲームのAmong Usに熱狂したのが2021年の上半期だったと感じています。

下半期は、人とのつながりを求めるサービスが、求められる一方で火がついては継続せずに消えてしまう現象を危惧し、まだ定義も曖昧な「メタバース」という理想空間に継続的な交流を期待し始めたところなのかなと思っています。

ただし、実態としては失われた人との交流の時間はTikTokやInstagram、YouTube、Netflixなどの個人的な動画視聴の時間に吸収され、そこでバズった韓流ドラマ「イカゲーム」や歌手のAdoが真にトレンド化していったのかなと思います。

  • 2022年のトレンド予測

オンラインで完結する共創コンテンツがトレンドになると考えています。つまり、リアルでは一緒にいないけれども、遠隔、共同で面白いコンテンツを制作してSNSに投稿するトレンドが生まれると思います。

そう考える理由は2つあります。1つ目は、昔のように“テレビで流行ってたアレ”みたいな流行がなくなったと思われていたZ世代にも、ショートムービーの流行(主にTikTok)によって世代共通の流行が生まれる素地が出来上がり、世代のトレンドが伝播しやすくなったことです。

2つ目はいつの世もトレンドを生み出してきた大学生の学生生活の大半はコロナ禍の影響を受けており、新しい友達を作らずにLINEですでに繋がっている少人数とより仲良くする現象が起きたからです。これら2つの理由から、少人数でオンライン完結型で一緒に創ってSNSに投稿してバズるみたいなフォーマットが生み出されやすくなったと考えています。

岩崎由夏氏 / YOUTRUST代表取締役

  • 2021年の振り返り

副業が珍しくなくなった1年になったと思います。調査でも、副業をする人は昨年と比較して100万人も増加したという結果になっています。コロナという外的な要因で、自分のキャリア・働き方の価値観やスタイルを見直した2020年だったのに対し、その考えをもとに、実際にアクションとして「副業」にチャレンジする方が圧倒的に増えた2021年だったように思います。

  • 2022年のトレンド予測

(スタートアップにとっては)採用激化な1年になると思います。

今、生き残っているスタートアップは、ある意味コロナという天災に打ち勝ってきた骨太な企業ばかり。本格的にアフターコロナの経済回復に向かう中で、優秀な人材を獲得することはどの企業にとっても事業成長のために避けては通れない経営課題になります。一方で、カジュアルかつ早期からのコミュニケーションに、コロナ禍で採用手法が多様化しています。スタートアップ各社が、事業成長のためにどんな採用を進めていくか、キャリアSNSを運営する立場として、また採用に頑張るいちスタートアップ企業として、とても楽しみです。

大槻祐依氏 / FinT代表取締役CEO

  • 2021年の振り返り

TikTok、その中でも「TikTok売れ」が盛り上がった1年だと思います。今年に入ってようやくZ世代と消費との相関が認識されてきました。今年は地球グミ、30年前の実験的SF小説、展覧会などのアート系など、TikTokによる爆売れ事例がいろんな業界で連続して起こりました。Z世代という言葉も流行語になり、今年は特にZ世代をターゲットにした企業・商品が多く出回ったように感じています。

  • 2022年のトレンド予測

メタバースなど3次元の世界では、2次元の世界に比べてもっともっと個人の趣味や趣向に合わせた居場所ができます。「自分」を複数の場所によって使い分けられるというイメージでしょうか。匿名性の他にも自分の見た目や性別なども変えられますし、SNSよりももっと自分をさらけ出せる場所として、盛り上がってくると思います。

仮想空間のマーケティングにおいても、いかにブランドの世界観を再現性高くコンテンツに落とし込めるかが大きく関わってくると考えています。従来のブランドは2次元的なメディア、つまり写真や動画・音声などでいかにブランドの世界観を作り込めるかに注力してきました。しかし3次元の場合、ブランドの世界観を360°の全方位から訴求できることになります。ブランドが作り込める情報量は必然的に多くなるほか、アバターとなった見知らぬファン同士で新たな仮想コミュニティができることも予想されます。

まだまだ参入者が少ない3次元の仮想空間において、いかにブランドの世界観を作り込めるか、といった点が今後は重要になってくるでしょう。

大見周平氏 / Chompy代表取締役

  • 2021年の振り返り

改めて「ECって面白いな!」と思った1年でした。

フードデリバリー業界はものすごいスピードで成熟化しつつありますし、派生した生鮮・日用品のデリバリー領域への新規参入も相次いぎ、ECの最後の未開の地と言われる「リアル×オンデマンド」領域での競争が本格化した1年でした。

「個」中心の分散的な市場では、筆頭格のShopify、BASEなどはストアフロント型としての完成形に近づき、その上で独自のコンテキストでマーケットプレイス型のアプリを強化。逆にエンタープライズに目線を移すと、10XやROUTE06のような、大手企業をDXすることによってEC化をする動きも立ち上がっていたり、ecforceのような「カート」という昔ながらの概念と向き合うSaaSが大型調達をしたりと、活況でした。

また、チャットコマースのZeals、共同購入のカウシェ、デジタルデータを出品・販売できるマーケットプレイスのeluのような新しいEC体験を日本文脈で根付かせようとするサービスが勢いよく成長する中、海外ではNFTなどさらに新しいトレンドが生まれたりしています。

Amazonなどの従来型のマーケットプレイスだけではない、さまざまな文脈でECの可能性を感じれてワクワクする1年だったなと感じています。

  • 2022年のトレンド予測

コロナ禍を経た国内EC市場でいうと、デジタルとリアルが混ざりあったEC体験が大きく伸びる、伸び始める年になるのではと思っています。

わかりやすい例で言うと、「リアル店舗DX」の領域があります。エンドユーザーのデジタルUX(ユーザーエクスペリエンス)への要求の高まりは不可逆なため、大手から中小まで幅広いサービスが立ち上がりつつあります。生鮮スーパー市場では10X、delyがエンタープライズを相手に取り組んでいたり、ShopifyやSTORESがPOS(販売時点情報管理)を通じてデジタルとリアル店舗をつなごうとしたりしています。

違う例で言うとリアルなグラフ(つながり)を中心としたソーシャル活用型のEC体験が広がるチャンスとも思っています。海外ではSnackpassというリアルなソーシャルグラフを活用した飲食テイクアウトサービスが急成長していますが、日本でも近しいサービスにチャンスがあると思っています。カウシェも現在はリアルグラフ外のマッチングが多いと思いますが、普及に伴いリアルグラフに軸足が移っていくと思います。コロナ禍で普及したデジタル完結のEC体験に、リアルが絡む価値を取り入れる所にチャンスがあると思っています。

小川嶺氏 / タイミー代表取締役

  • 2021年の振り返り

あらゆる業界でDXが盛り上がった年だったと感じています。リモートワークやオンライン会議が当たり前となり、比較的これまでDXが進んでこなかった飲食業界や物流業界、小売業界でもウェブ会議システムを店長会議等で導入するようになりました。

これによってITに対する理解が各業界で進み、効率化できるものは何かを考える視点が当事者として芽生えた年だったのではないでしょうか。結果として、タイミー事業自体にも大きな追い風になりました。これまでは、アプリだけで人を呼ぶという発想自体が中々受け入れられてきませんでした。大きな業態の企業であればなおさらです。

しかし、このコロナ禍・緊急事態宣言解除後という特殊な状況の中で、ボタン1つで人を呼ぶという発想の受け入れが半強制的に成し遂げられたのではないかと推測しています。こうしたITへの理解が、人材領域でのDXに結びついた一因であると考えます。

  • 2022年のトレンド予測

個人的に興味があり期待しているのは、メタバースの領域です。Facebookが社名をMetaに変更しましたが、この流れはウィズ・アフターコロナの世界で加速すると考えています。

ここまでオンライン会議やテレワークが浸透した現在においては、リアル(オフライン)だけで完結する世界に戻るとは考えづらく、今後はリアルとオンラインのハイブリッドになると考えています。そうした中、リアルでは「自分が自分である意味・必要性」という承認欲求を満たしにくくなっていくと推測します。メタバースは仮想空間に自分(パーソナリティ)を作ることができる新しい概念です。社会的承認欲求を得にくい社会において、今後求められる機能を担っていくのではないかと思っています。

加藤貞顕氏 / note代表取締役CEO

  • 2021年の振り返り

ネット上で人々が暮らすようになる過程が引き続き進行しています。2020年はコロナもあって社会的にもその流れが進みましたが、2021年は仮想通貨やXRなど、ネット上で人々が暮らすための技術的な基盤がそろい、より具体的なものになりつつあります。そこが前年とは大きく異なる点です。

  • 2022年のトレンド予測

モノへの消費から体験の消費に切り替わる流れが進むと思います。その流れもリアルとバーチャルに二極化していますが、個人的にはリアル方面では、DIY、リノベーション、農業などの、実際に手でモノをつくる体験の領域に注目してます。